夏になると気温の上昇とともに熱中症のニュースが増えますが、糖尿病をお持ちの方は、そうでない方に比べて熱中症のリスクが高いことが報告されています。さらに、熱中症と高血糖は互いに悪影響を及ぼし合うため、夏の体調管理には少し特別な視点が必要だと考えられています。
この記事では、糖尿病をお持ちの方が知っておきたい「熱中症リスクの理由」と「夏の備え方」をエビデンスをもとに整理しました。
糖尿病の方が熱中症になりやすい3つの理由
1. 自律神経障害により発汗・体温調節がうまくいかなくなる
糖尿病の合併症のひとつに「糖尿病性神経障害」があり、発汗を司る自律神経が障害されると、暑くても汗をかけなくなったり、汗のかき方に偏りが出たりすることがあるとされています。発汗は体温を下げるしくみの中心なので、これがうまく働かないと体温が上がりやすくなり、熱中症につながりやすいと考えられています(参考:糖尿病ネットワーク「糖尿病による神経障害」)。Mayo Clinicの内分泌科グループによるレビュー(Westphal SA et al., Endocr Pract. 2010; PMID: 20150024)でも、糖尿病をお持ちの方は熱による悪影響(脱水・電解質異常・救急受診の増加など)を受けやすく、熱中症への感受性が高い可能性があると報告されています。
2. 高血糖そのものが脱水を招きやすい
血糖値が高い状態が続くと、体は余分な糖を尿として排出しようとするため尿量が増え、結果として水分が失われやすくなります(浸透圧利尿)。また、高血糖になると血液中の糖を薄めるために細胞内から血管内へ一時的に水分が移動しますが、その水分も最終的には尿として排出されるため、体全体としては脱水傾向に傾きやすいと考えられています。
3. のどの渇きを感じにくくなることがある
神経障害が進むと感覚そのものが鈍くなることがあり、暑さや喉の渇きに気づきにくくなるケースがあるとされています。「のどが渇いていない=水分が足りている」ではない、ということを意識しておきたいところです。
熱中症と高血糖の「悪循環」に注意
脱水が起こると、血液中の糖が相対的に濃縮され、血糖値はさらに上がりやすくなります。血糖値が上がると尿量が増え、また脱水が進む——という悪循環に入りやすいことが知られています。
夏の暑熱環境において糖尿病患者の血糖調節に変化が生じうることは、Mayo Clinicのレビュー(Westphal SA et al., 2010)でも指摘されています。これに加え、暑さや体調不良によるストレスがコルチゾールなどのホルモン分泌を介して血糖値に影響することも、血糖コントロールが乱れる要因のひとつとして考えられています。「夏は血糖コントロールが乱れやすい」と感じる方が多いのは、こうした複数の要因が重なっているためかもしれません。
体調の異変を感じたときの初期サインについては、こちらの記事もあわせてご覧ください。
👉

夏の水分補給で気をつけたいこと
基本は「こまめに・少しずつ」
厚生労働省の「健康のため水を飲もう」推進運動では、のどが渇く前にこまめに水分をとることが推奨されています。1日の必要水分量の目安は約2.5L(食事中の水分を含む)とされており、夏場はそれ以上を意識する必要があると考えられています。
水分補給の基本は水や麦茶です。スポーツドリンクは糖分を多く含んでおり、糖尿病の方が日常的に大量に飲むと血糖コントロールに影響するおそれがあるとされています。
水分補給の基本については、こちらでも詳しく解説しています。
👉

経口補水液は「いざというとき用」と考える
経口補水液は、水分と電解質を効率よく補給できる飲み物で、脱水時に役立つとされています。国の制度上は「特別用途食品(病者用食品)」に位置づけられており、健康な人の日常的な水分補給用ではなく、脱水状態にある人のための飲み物だとされています。消費者庁も「脱水状態でない人がふだんの水分補給として飲むものではない」と注意を呼びかけています。
経口補水液にもブドウ糖が含まれているため、糖尿病の方が多量・常用すると血糖コントロールに影響する可能性があるとされています。
ただし、「使ってはいけない」というわけではありません。脱水時の備えとして使うかどうか、自分の血糖コントロール状況や治療内容をふまえて、夏が本格化する前に主治医に相談しておくことが安心につながると、私自身は考えています。脱水になってから判断するのは負担も大きいので、元気なうちに「夏場に経口補水液を使ってよいか・どんなタイミングで使うか」を確認しておくのがおすすめです。
服用中のお薬と熱中症リスク
SGLT2阻害薬を使っている方は特に注意
SGLT2阻害薬は、尿に糖を排出することで血糖値を下げる薬で、その作用のしくみ上、尿量が増えて脱水を起こしやすい副作用があるとされています。日本糖尿病学会は「糖尿病治療におけるSGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation」のなかで、シックデイ(発熱・下痢・嘔吐などで食事が十分に摂れない状態)には必ず休薬すること、また脱水防止のための対策を十分に講じることを示しています。利尿薬を併用している場合には、特に脱水に注意するよう求められています。
夏場は特に脱水になりやすいため、SGLT2阻害薬を使っている方は、
- いつもより意識的にこまめな水分補給を行う
- 体調不良時の対応(休薬の判断含む)を主治医とあらかじめ確認しておく
ことが大切だと考えられています。
利尿薬・降圧薬を併用している方も注意
血圧の薬の一部や利尿薬は、もともと尿量を増やす働きがあります。糖尿病の薬と併用している方は脱水リスクがさらに重なる可能性があるため、主治医や薬剤師に「夏場の水分のとり方」を聞いておくと安心です。
⚠ お薬の中断・調整は、必ず主治医の判断のもとで行ってください。自己判断での休薬は危険です。
今日からできる予防チェックリスト
夏本番の前に、次の項目を確認してみてください。
- 室温は28℃前後を目安にエアコンを使用している
- 室内の湿度は60%以下を目安にしている(発汗障害がある方は特に注意)
- のどが渇く前に、コップ1杯程度の水をこまめにとっている
- 外出は気温の高い時間帯(11〜15時)を避けている
- 服装は通気性のよい、汗を吸う素材を選んでいる
- 体重・血糖値の変動を記録し、いつもと違うサインに気づける状態にしている
- 経口補水液を使ってよいか、主治医に確認済みである
- 服用中の薬と熱中症リスクの関係を、主治医・薬剤師に確認済みである
エアコン使用と電気代のバランスについては、こちらの記事もあわせてご覧ください。

よくある質問(Q&A)
Q1. 経口補水液は糖尿病でも飲んでいい? A. 経口補水液にもブドウ糖が含まれており、糖尿病の方が常用すると血糖コントロールに影響するおそれがあるとされています。一方で、脱水時には有用とされる飲み物でもあります。「飲んでいいか・どんなタイミングで使うか」を、夏が本格化する前に主治医に相談しておくことが勧められています。
Q2. 夏場に血糖値が不安定になりやすいのはなぜですか? A. 暑さによるストレスや脱水、食欲の変化など、夏場は血糖コントロールに影響する要因が増えると考えられています。自己測定の数値が普段と大きく違う場合や、体調の変化を伴う場合は、自己判断せず早めに主治医へ相談してください。
Q3. SGLT2阻害薬を飲んでいます。普段から多めに水を飲んだほうがいい? A. SGLT2阻害薬は尿量が増える特徴があり、脱水防止のための水分補給が重要とされています。具体的な必要量や注意点は個人差が大きいため、主治医や薬剤師の指示に従ってください。
Q4. 熱中症かな?と思ったら、まず何をすればよい? A. 涼しい場所に移動して衣服をゆるめ、首・脇・足の付け根などを冷やし、水分・塩分補給をするのが基本とされています。意識がはっきりしない、自分で水が飲めないといった症状があるときは迷わず救急要請を。判断に迷う場合は早めに医療機関へ相談してください。
著者より
夏は楽しい季節でもあります。「我慢する夏」ではなく、「備えて快適に過ごす夏」になるよう、この記事が少しでも役に立てばうれしく思います。気になることがあれば、ぜひかかりつけの先生に相談してみてください。
医療免責事項
本記事は一般的な健康情報の提供を目的としており、個別の診断・治療を行うものではありません。糖尿病の治療内容・お薬の使用方法・水分補給の具体的な目安などについては、必ず主治医や薬剤師の指示に従ってください。体調に異変を感じた場合や判断に迷う場合は、早めに医療機関へご相談ください。
主な参考資料
- 環境省「熱中症環境保健マニュアル」
- 厚生労働省「健康のため水を飲もう」推進運動
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「糖尿病神経障害」
- 消費者庁「経口補水液の正しい使い方」
- 日本糖尿病学会「糖尿病治療におけるSGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation」(2022年7月26日改訂)
- 日本救急医学会「熱中症診療ガイドライン2024」
- 糖尿病ネットワーク「糖尿病による神経障害」「糖尿病の人は熱中症にご注意」
- Westphal SA, Childs RD, Seifert KM, et al. Managing diabetes in the heat: potential issues and concerns. Endocr Pract. 2010;16(3):506-511. DOI: 10.4158/EP09344.RA. PMID: 20150024


コメント