「最近、血糖値が気になる」「健診でHbA1cが高めと言われた」という方の中に、じつは睡眠が関係しているケースがあるとされています。睡眠不足は食事や運動と同じように、血糖コントロールに影響する要因のひとつと考えられています。
この記事では、睡眠不足が血糖値に与えるしくみと、日常でできる改善のポイントをエビデンスをもとに整理しました。
睡眠不足が血糖値を上げる3つのしくみ
以下に挙げる3つのしくみは、糖尿病の方だけでなく、現在健康な方にも起こりうるとされており、将来の血糖値や糖尿病リスクにも関係すると考えられています。
1. インスリンが効きにくくなる(インスリン抵抗性の上昇)
血糖値を下げるホルモンであるインスリンは、睡眠不足になると体の細胞に対して効きにくくなることが知られています。これを「インスリン抵抗性の上昇」といいます。
インスリンが効きにくくなると、食後に血糖値が下がりにくくなり、高血糖の状態が続きやすくなります。健常者を対象とした研究では、たった一晩の睡眠制限(4時間睡眠)でもインスリン感受性が低下し、肝臓での糖産生が増加することが確認されています(Donga E et al., J Clin Endocrinol Metab. 2010;95(6):2963-8. PMID: 20371664)。
2. ストレスホルモン(コルチゾール)が増加する
睡眠不足になると交感神経が活性化し、コルチゾール(ストレスホルモン)の分泌が増えるとされています。睡眠制限により交感神経活性化・夕方のコルチゾール上昇が生じることが報告されています(Hirotsu C et al., Sleep Sci. 2015;8(3):143-152. PMC: 4688585)。コルチゾールは肝臓での糖新生を促進してインスリンの働きを阻害するため、血糖値が上がりやすくなると考えられています。
3. 食欲ホルモンのバランスが崩れる
一部の研究では、睡眠不足が食欲を増進させるグレリンを増加させ、食欲を抑制するレプチンを減少させることが報告されています(Spiegel K et al., Ann Intern Med. 2004;141(11):846-50. PMID: 15583226)。ただし研究によって結果が異なり、エビデンスはまだ一致していない部分もあるとされています。食事量が増えやすくなることで、血糖コントロールがさらに難しくなる可能性も考えられています。
インスリンが効きにくい状態で食事量が増えるという二重の影響があるため、血糖コントロールの乱れが生じやすくなると考えられています。
HbA1cにも影響するの?
HbA1c(ヘモグロビンA1c)は過去1〜2か月の血糖値の平均を反映する指標です。睡眠不足が継続すると、こうした血糖値の乱れが積み重なり、HbA1cの値にも影響しうるとされています。
短睡眠(6時間未満)の方ではHbA1cが高い傾向があるという調査結果も報告されており(参考:糖尿病ネットワーク)、慢性的な睡眠不足は血糖管理の観点からも注意が必要だと考えられています。
睡眠不足と糖尿病リスクの関係
睡眠時間が短い人では2型糖尿病のリスクが高まることを示す研究が複数報告されています。短睡眠がインスリン抵抗性と有意に関連することがシステマティックレビューで示されています(Singh T et al., Cureus.2022. DOI: 10.7759/cureus.23501. PMID: 35494895)。
また、厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、成人は6時間以上を目安として必要な睡眠時間を確保することが推奨されています。ただし適切な睡眠時間には個人差があるため、日中に眠気が出ない・すっきり目覚められることを参考に自分に合った時間を見つけることが大切とされています。
睡眠時間の目安についてはこちらの記事もご覧ください。

すでに糖尿病の方は特に注意
糖尿病をお持ちの方にとって、睡眠不足はさらに注意が必要な要因です。
血糖コントロールがうまくいかないと夜中に尿意で目が覚めやすくなり、睡眠の質が低下する→血糖が乱れる→さらに眠れなくなる、という悪循環が生じることも考えられています。また、糖尿病との合併が多いことが知られている睡眠時無呼吸症候群も、インスリン抵抗性を高める要因になりうるとされています。
血糖コントロールと睡眠の両面を意識することが大切だと考えられています。
糖尿病の方の夏の注意点についてはこちらもご覧ください。

睡眠の質を下げる生活習慣チェックリスト
心当たりがあるものがあれば、まず1つずつ見直してみてください。
- 就寝1時間前以降にスマホ・タブレットを見ている
- 寝る直前に食事をとることが多い
- 就寝の数時間前以降にカフェインを含む飲み物(コーヒー・紅茶・エナジードリンクなど)を摂取している
- 就寝時刻・起床時刻が毎日バラバラ
- 寝室が明るい・騒音が気になる
- 寝る前にお酒を飲む習慣がある
- 休日に平日より2時間以上長く寝ている(社会的時差ボケ)(参考:厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」)
スマホと睡眠の関係についてはこちらで詳しく解説しています。

血糖値を意識した睡眠改善のポイント
光と音の環境を整える
眠りを深くするためには、寝室の光と音をコントロールすることが効果的とされています。
外からの光が入りやすい環境では、アイマスクが手軽な対策になります。また、騒音が気になる場合は耳栓や遮音性のあるイヤホンも選択肢のひとつです。
室温・湿度も意識する
快適な睡眠のためには、適切な室温・湿度を保つことが大切とされています。夏場はエアコンを上手に活用するのもひとつの方法です。
就寝・起床時刻を一定にする
体内時計を整えることで、インスリン分泌のリズムも安定しやすくなると考えられています。休日も含めて、できるだけ同じ時刻に起きることが推奨されています(参考:厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」)。
よくある質問(Q&A)
Q1. 睡眠不足が続くと血糖値はどう変わりますか? A. 睡眠不足が続くと、インスリン感受性が低下してインスリンが効きにくくなり、血糖値が上がりやすくなることが複数の研究で報告されています。一部の研究では食欲ホルモンにも影響が出ることが報告されており、食事量が増えやすくなる可能性も考えられています。こうした要因が重なることで、血糖コントロールがさらに難しくなることも考えられています。
Q2. 何時間寝れば血糖値への悪影響を防げますか? A. 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、成人は6時間以上を目安として必要な睡眠時間を確保することが推奨されています。ただし個人差があるため、日中に眠気が出ない・すっきり目覚められることを目安にすることも大切とされています。判断に迷う場合は医療機関にご相談ください。
Q3. 糖尿病の方は睡眠に特に気をつけるべきですか? A. はい、血糖コントロールと睡眠は互いに影響し合うとされており、糖尿病をお持ちの方は特に睡眠の質に注意することが勧められています。睡眠の問題(いびき・夜中に何度も目が覚めるなど)が続く場合は、担当医に相談してみてください。
Q4. 一晩の睡眠不足でも血糖値に影響しますか? A. 研究では、たった一晩の睡眠制限でもインスリン感受性が低下することが報告されています(Donga E et al., 2010)。慢性的でなくても、睡眠不足が重なると影響が出やすくなると考えられています。判断に迷う場合は医療機関へご相談ください。
Q5. 健康診断で血糖値は正常でも、睡眠不足に気をつけた方がいいですか? A. はい。健常者を対象とした研究でも、たった一晩の睡眠制限でインスリン感受性が低下することが確認されています(Donga E et al., 2010)。現在の血糖値が正常でも、慢性的な睡眠不足が将来の糖尿病リスクに関係すると考えられているため、予防の観点からも睡眠を意識することが勧められています。
Q6. 睡眠を改善すれば血糖値は下がりますか? A. 睡眠の質・量を改善することで血糖コントロールが改善したという研究報告もあるとされています。ただし効果には個人差があり、すでに血糖値が高い方や糖尿病の方は、睡眠改善だけで対処しようとせず、必ず主治医にご相談ください。
著者より
「血糖値が気になるけれど、食事や運動は気をつけているのに…」という方の中に、睡眠が見落とされているケースは少なくないと感じています。睡眠は血糖コントロールの「縁の下の力持ち」とも言えます。まずは今夜の睡眠環境を一つ整えることから始めてみてください。
医療免責事項
本記事は一般的な健康情報の提供を目的としており、個別の診断・治療を行うものではありません。血糖値・HbA1cの管理については、必ず主治医や薬剤師の指示に従ってください。体調に異変を感じた場合や判断に迷う場合は、早めに医療機関へご相談ください。
主な参考資料
- 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」
- 糖尿病ネットワーク「たった一晩の睡眠不足が糖尿病を悪化」
- Donga E, van Dijk M, van Dijk JG, et al. A single night of partial sleep deprivation induces insulin resistance in multiple metabolic pathways in healthy subjects. J Clin Endocrinol Metab. 2010;95(6):2963-2968. PMID: 20371664
- Singh T, Ahmed TH, Mohamed N, et al. Does Insufficient Sleep Increase the Risk of Developing Insulin Resistance: A Systematic Review. Cureus. 2022;14(3):e23501. DOI: 10.7759/cureus.23501. PMID: 35494895
- Spiegel K, Tasali E, Penev P, Van Cauter E. Brief communication: Sleep curtailment in healthy young men is associated with decreased leptin levels, elevated ghrelin levels, and increased hunger and appetite. Ann Intern Med. 2004;141(11):846-850. PMID: 15583226
- Hirotsu C, Tufik S, Andersen ML. Interactions between sleep, stress, and metabolism: From physiological to pathological conditions. Sleep Sci. 2015;8(3):143-152. PMC: 4688585


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