夏、脚がめちゃくちゃむくみます。ぱんぱんになる。
しかも私の場合、冬より夏のほうが酷いという実感があります。
これを言うと、たいてい不思議がられます。むくみといえば「冷え」「血行不良」——つまり冬の話だと思われているからです。私自身、長いあいだそう思っていました。
でも調べてみると、夏には夏のしくみがありました。梅雨のむくみとも、原因が入れ替わります。しかも「暑いと血管が広がるから」だけでは説明が足りません。汗をかいて水分を失っているのに、体はむしろ水をため込む方向に動く——この逆説が、夏のむくみの中心にあります。
そして、この現象には名前がついていました。「熱浮腫」といいます。白状すると、私はこの言葉を今回はじめて知りました。日本の熱中症の分類に入っていないからです。
この記事では、そのしくみを整理したうえで、着圧ソックスの実際、そして受診したほうがいいむくみとの見分け方まで書きます。最後の部分が、いちばん大事です。
「熱浮腫」という名前がついています
暑さによって手足がむくむ現象には、医学的な名前があります。熱浮腫(heat edema)です。
暑熱関連の不調は、熱けいれんや熱浮腫といった比較的軽いものから、命に関わる熱射病まで連続したものとして整理されています。そのなかで熱浮腫は、血管拡張と、重力による体液の貯留によって、手足の末梢が腫れるものと定義されています(文献1)。
典型例として挙げられているのが、それまで慣れていたより暑い環境に移った高齢の方に生じる下肢の腫れです。
ここで知っておいてほしいことが、3つあります。
1つめ。すぐには出ません。文献1は、暑い環境に移ってから1〜2日後に下肢の腫れが出てくる、という経過を挙げています。だから「昨日そんなに暑かったっけ」となる。原因と結果が1日ずれるので、暑さと結びつけにくいのです。
2つめ。脚だけとは限りません。同じ文献に、「手袋や靴がきつく感じる」と訴えるという記載があります。むくみは手足の末端(acral)に出るので、脚を見る前に、履き物で気づくことがあります。
3つめ。自然に引きます。熱浮腫を含む軽症の暑熱関連の不調について、文献1は予後を「良好」とし、涼しい環境に移して水分と電解質を補えば自然に治まる(self-limited)としています。
つまり「夏に脚がむくむ」は、体質や気のせいではありません。名前がついていて、しくみも分かっている現象です。
ただし、日本ではあまり使われない言葉です
冒頭に書いたとおり、私はこの「熱浮腫」という言葉を、今回はじめて知りました。調べてみて、理由が分かりました。日本の公的な分類に入っていないのです。
環境省の『熱中症環境保健マニュアル』は、熱中症の病態を次の4つで整理しています(文献6)。
| 病態 | 内容 |
|---|---|
| 熱失神(heat syncope) | 立ちくらみ、一過性の意識消失 |
| 熱けいれん(heat cramps) | ふくらはぎなどのこむら返り |
| 熱疲労(heat exhaustion) | 倦怠感、頭痛、吐き気、嘔吐 |
| 熱射病(heat stroke) | 高体温と意識障害。命に関わる |
熱浮腫は、この4つに含まれていません。日本ではさらに、病態よりも重症度(Ⅰ度・Ⅱ度・Ⅲ度)で判断する方式が採られています。
一方、英語圏の総説(文献1)は、heat cramps・heat edema・heat rash・heat syncope といった軽症群から heat stroke までを並べて扱います。熱浮腫は、その軽症群のひとつとして載っています。
ただ、名前がないわけではないのに拾われていない。その分だけ、「夏にむくむ」で困っている人の行き場がなくなっているとは感じます。検索しても「冷え」「血行不良」「気圧」の話ばかり出てくるのは、そのせいでもあるでしょう。
なお、日本の分類に載っていないからといって、軽く見ていいという意味ではありません。熱浮腫が出ているのは、体が暑さに対応している最中だという合図でもあります。めまい・頭痛・吐き気が加わってきたら、話は別の段階に移ります(熱中症の初期症状チェックリスト|応急処置の手順と救急車を呼ぶ判断基準を解説)。
著者の視点
日本の分類は命を守るための優先順位でできています。応急処置の場面では、病名を細かく分けるより「意識があるか」「水が飲めるか」で動いたほうが確実です。むくみのように命に関わらないものを拾わないのは、合理的な設計だと思います。
そのうえで。名前がついていると分かったとき、私は少し安心しました。「夏なのにむくむ」ではなく「夏だからむくむ」だった。むくみを冷えの問題だと思い込んでいると、夏に起きたときに自分の体を疑ってしまいます。
名前がある。しくみが分かっている。対処も、やってはいけないことも決まっている。それを知っているだけで、動き方が変わります。
実践ポイント
- 夏に足首や下腿がむくむのは、よくあることです。まず落ち着いてください
- 暑くなった当日ではなく、1〜2日後に出ます。「なぜ今日?」と思ったら、一昨日の暑さを思い出してください
- 脚だけでなく、靴のきつさでも気づけます(文献1に記載)。手指にも出るので、指輪がきついのも同じ理屈だろうと考えています
- 涼しくして脚を上げれば、通常は自然に引きます
- ただし後述する「受診の目安」に当てはまる場合は別です。とくに片足だけのむくみは、この記事の対象外だと考えてください
夏にむくむ、3つのしくみ
① 熱を逃がすために、血管が広がる
暑いとき、体は熱を外に捨てようとします。その主な方法が、皮膚の血管を広げて血流を増やすことです。
ところがこれには副作用があります。むくみは、血管の中と外で水分をやりとりする圧のバランスが崩れたときに起こります。血管内から水分を押し出す力(静水圧)が上がるか、引き戻す力(膠質浸透圧)が下がるか、そのどちらかです(文献2)。
血管が広がると、毛細血管の中の圧力が上がります。押し出す力が強くなるわけです。これが熱浮腫の出発点になります(文献1)。
そして重力が加わります。立っている時間、座っている時間が長いほど、水分は下へ下へと集まる。足首と下腿がいちばん腫れるのは、そこが体のいちばん下だからです。
② 汗をかくほど、体は水をため込む
夏のむくみで、いちばん意外なのはこの部分です。
汗をかくと体の水分が減ります。血液の液体成分(血漿)も減る。すると体は「まずい、水が足りない」と判断し、水分とナトリウムをできるだけ手放さないようにホルモンを働かせます。アルドステロンや抗利尿ホルモンと呼ばれるものです。
そもそもむくみの成り立ちには、「血管から水が漏れる」段階と、「腎臓がナトリウムと水をため込む」段階の2つがあるとされています。後者を担うのが、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系です(文献2)。
暑さに慣れていく過程(暑熱順化)を調べた総説では、この働きによって体全体の水分量が2〜3リットル、率にしておよそ5〜7%増えるとされています。維持しているのはアルドステロンやバソプレシンといった「水を保つホルモン」と、ナトリウムの再吸収です(文献3)。
ただし、線は正確に引いておきます。この総説が扱っているのは、おもに運動時の暑熱順化(アスリートを含む)です。日常生活を送る人に同じ幅で起きるとは限りません。そして重要なのは、体液量が増えること自体は暑さに対応するための「適応」であって、「むくみ」ではないという点です。この研究は、暑熱順化がむくみを起こすと示したものではありません。
著者の視点として
私が考えているのは、こういう筋道です。体が水を抱え込む方向に傾いているところへ、①の血管拡張と重力が重なる。そうなれば、その水分の一部が下肢の組織にとどまりやすくなるのではないか。ただしこれは、2つの現象をつないだ私の解釈です。「暑熱順化が夏のむくみを起こす」と直接示した研究を、私は見つけられませんでした。
汗で水分を失っているのに、むくむ。 矛盾しているようですが、失うからこそ体が抱え込もうとする、という順序です。
③ 熱中症対策で、塩分を増やしている
夏は「塩分もとりましょう」と言われます。大量に汗をかいたときには必要な助言です。
ただ、ナトリウムを多く摂れば、体はそれに見合った水分を保持します。塩分と水はセットで動くからです。
著者の視点として
汗をあまりかいていない日にまで熱中症対策の感覚で塩分を足していると、むくみの側に働くことがあるのではないか——と私は考えています。そう示した研究があるわけではありません。生理のしくみから導いた推測です。
もうひとつ。「水を飲むとむくむから控える」という考え方が、世の中にはあります。それは逆効果になりえます。水分が足りなくなれば、体はますます水を手放さない方向に傾くからです。控えるべきは水ではなく、必要のない塩分だと考えています。とはいえ、汗をたくさんかいた日は話が別です。
実践ポイント
- 水分は控えない。 夏に水を減らすのは、むくみ対策としても脱水対策としても筋が悪い選択です
- 見直すなら塩分のほう。汗をかいていない日まで、意識して塩を足す必要はありません
- ナトリウムを出す側の栄養素であるカリウム(野菜・果物・海藻・豆)の摂り方は、梅雨のむくみに効く食事と入浴|カリウム・全身浴の対策を保健学博士が解説にまとめています。季節は違っても、塩分とカリウムの考え方は同じです。ただし腎臓に持病のある方はカリウムを自己判断で増やさないでください
- 夕方に脚が重い日は、横になって脚を心臓より高くする時間を10〜15分つくる。重力を味方にします
- ふくらはぎを動かす。かかとの上げ下げを20回するだけでも、静脈を押し上げるポンプが働きます
梅雨のむくみとは、原因が入れ替わります
同じ「脚がむくむ」でも、季節によって主役が違います。
| 梅雨のむくみ | 夏のむくみ | |
|---|---|---|
| 主なしくみ | ふくらはぎの筋ポンプ低下、自律神経の乱れ、リンパの停滞 | 熱を逃がすための血管拡張、発汗に対する水分・ナトリウムの保持 |
| きっかけ | 雨で外出が減り、動く量が落ちる | 暑さそのもの、汗、重力 |
| 塩分の位置づけ | 麺類・加工食品に偏り、気づかずにとりすぎる | 熱中症対策として、意図的に足している |
| 対策の軸 | 動かす、自律神経を整える | 熱をためない、脚を上げる、塩分を見直す |
| 動けば戻るか | ある程度戻せる | 暑さから離れないと元が断てない |
ひとつ、はっきりさせておきます。梅雨のむくみも「気圧のせい」ではありません。8時間の着座で気圧の変化を再現した実験では、周囲の気圧低下は足のむくみに有意な影響を与えませんでした。詳しくは姉妹記事に書いています。梅雨も夏も、犯人は天気そのものではなく、その天気がもたらす過ごし方と、体の反応です。
塩分については、両方の季節で問題になります。ただし入り口が違います。梅雨は食欲が落ちて麺類や加工食品に偏り、気づかないうちに塩分が増える。夏は熱中症対策という正しい理由で、意識して足している。後者のほうが厄介です。良かれと思ってやっているぶん、疑いにくいからです。
梅雨のむくみについては、梅雨のむくみはなぜ起きる?原因とふくらはぎ・自律神経の対策を保健学博士が解説と梅雨のむくみに効く食事と入浴|カリウム・全身浴の対策を保健学博士が解説にまとめています。
もちろん、両方が重なる時期もあります。梅雨明け直後などは、動かない生活と暑さが同時に来ます。
著者の視点
「冬より夏のほうが酷い」という私の実感は、この表を作ってみて腑に落ちました。私の理解では、寒い時期のむくみは主に動かないことから来ますが、夏のむくみは暑さそのものが原因を作っています。動く量を増やせば前者はある程度戻せますが、夏は暑さから逃げないと元が断てません。だから手強いのだと感じています。
——ただし、季節ごとのむくみの量を直接比べた研究を引いたわけではありません。しくみの違いから考えた、私の説明です。
むくみやすい時期があります
暑熱順化——体が暑さに慣れる過程には、時間の目安があります。
文献1は、暑い環境での活動に備える順化期間として7〜14日を挙げ、さらにその環境から離れると2〜3週間かけて順化が薄れていくとしています。文献3も、順化の中心にあるのが体液量の増加とナトリウムの保持だと整理しています。
ただしこの時間の目安は、暑い場所で運動や労働をする人を想定した記載です。冷房のある家とオフィスで夏を過ごす人に、同じ日数がそのまま当てはまるとは限りません。
「梅雨明け直後が危ない」は、日本のデータでも裏づけられています
ここは私の推測だけではありません。環境省のマニュアルが、記録的な猛暑となった2010年の実データを挙げて説明しています(文献6)。
2010年、厳しい暑さが続いた期間は7月後半・8月前半・8月後半の3回ありました。ところが搬送数と死亡数が突出したのは、7月17日の梅雨明け直後にあたる最初の期間だけでした。
同マニュアルはこう書いています。「多くの人が暑さに慣れていなかったことも熱中症の犠牲者が急増した原因となったと考えられます。このような梅雨明け直後に暑さが継続する期間は熱中症発症リスクが高く、とりわけ注意が必要です」。
さらに、8月後半は暑さ指数が7月後半と同等かそれ以上だったにもかかわらず搬送数は減っていました。同マニュアルはこの違いを暑熱順化によるものと考えられるとしています。7月に汗をかいて体ができあがったから、同じ暑さに耐えられた、という説明です。
同じ気温でも、慣れているかどうかで体の反応が変わる。この見方は、日本の公的資料が実際の搬送データをもとに示しているものです(ただし対照実験ではなく、観察された差の解釈である点は押さえておいてください)。同マニュアルは日常生活の注意事項として「急に暑くなる日に注意しましょう」「暑さに備えた体づくりをしましょう」を挙げ、熱中症になりやすい人にも「暑さに慣れていない人」を明記しています。
ここから見えてくるのは、慣れていない時期がいちばん揺れるということです。
| 時期 | 体の状態 |
|---|---|
| 梅雨明け直後 | まだ順化していないところに、急に暑さが来る |
| 順化の途中(7〜14日) | 体液を増やしながら、暑さに適応していく最中 |
| 順化が完成した後 | 発汗が早く始まり、塩分の損失も減る |
| 涼しい場所に2〜3週間 | 順化が薄れていく。戻るとやり直しに近い |
著者の視点として
ここまでのうち、「慣れていない時期に熱中症が増える」ことは日本の実データで確認されています。一方、「順化の途中がいちばんむくむ」と直接示した研究は、私は見つけられませんでした。熱中症とむくみは別の話です。体液を増やしている最中なのだから揺れやすいのではないか、というところは私の推測だと分けて読んでください。
ただ、実感とは合います。私がいちばん脚をやられるのは、真夏のピークより梅雨明けの数日です。体がまだ夏用になっていない。そこに気温だけが先に来る。
実用的に言えるのは、涼しい環境から急に暑い場所へ移る場面は要注意だという一点です。梅雨明け、真夏の帰省、旅行先。文献1が典型例として挙げているのも「それまで慣れていたより暑い環境に移った人」でした。
実践ポイント
- 暑くなり始めの1〜2週間は、脚を上げる時間を意識してつくる
- 涼しい土地から暑い土地へ移動する日は、その日と翌日に無理をしない
- 冷房の効いた職場で過ごす日が続いた後、屋外の作業が入る日は同じことが起きます
- 順化は「がんばって暑さに耐える」こととは違います。冷房を切って順化させようとしないでください。熱中症の危険が上回ります
「冷房でむくむ」は本当か
正直に書きます。
私自身、冷房の影響を感じています。ただ調べてみると、生理学的には理屈が逆でした。
冷えると皮膚の血管は収縮します。血管が縮めば毛細血管の圧は下がり、水分は組織へ染み出しにくくなる。熱浮腫は暑さで血管が拡張して起こる現象ですから、冷房はむしろむくみを減らす方向に働くはずなのです。
では、感じているものは何なのか。冷房が直接むくみを起こすという明確な証拠を、私は見つけられませんでした。考えられるのは、冷房そのものではなく、冷房下の過ごし方です。
- 涼しい室内では座っている時間が長くなり、ふくらはぎのポンプが働かない
- 冷たい飲み物を一度にたくさん飲む
- 屋外との温度差を何度も行き来する
著者の視点として
以上は私の推測です。ただ、この見方には利点があります。冷房を我慢する方向に行かずに済むからです。夏に冷房を切るのは、熱中症の観点からすすめられません。「冷房が悪い」と思い込むと、危ないほうへ努力が向いてしまいます。疑うなら、冷房そのものではなく、冷房の効いた部屋で何時間座っていたかだと考えています。
実践ポイント
- 冷房は切らない。むくみを理由に室温を上げるのは、夏には割に合いません
- 1時間に一度は立つ。かかとの上げ下げを20回でも違います
- 冷たい飲み物を一気に飲まず、常温のものを少しずつに
着圧ソックスは効くのか
先に位置づけを書いておきます。文献1は熱浮腫の対処として、患部の挙上と圧迫衣類(compression garments)を挙げています。着圧ソックスはこの「圧迫衣類」のひとつです。脚を上げることと圧迫は、思いつきの民間療法ではなく、この現象に対して挙げられている手当てです。
立ち仕事や夜勤で着圧ソックスを使っている方は多いはずです。私も夜勤のあいだ、ずっと履いていました。
効果を示した研究もあります。
Garcia らは、男性の警備員40名を、通常の靴下・15〜20 mmHg・20〜30 mmHgの着圧ソックスの3群に無作為に割り付け、12時間の立ち仕事の前後を比較しました(文献4)。通常の靴下の群では下腿の筋疲労・むくみ・不快感が有意に増えたのに対し、着圧ソックスを履いた2群では有意な変化が見られませんでした。
興味深いのは、15〜20 mmHgと20〜30 mmHgで結果に差がなかった点です。著者らは「より低い圧で十分かもしれない」と述べています。きつければ効く、ではない。
ただし対象は男性40名。女性や、夜勤のように立位と座位が混ざる働き方でそのまま同じとは限りません。
一方、利尿薬は違います
同じ文献1が、はっきりこう書いています。熱浮腫に利尿薬の役割はない(There is no role for diuretic medications for heat edema)。
理由を考えれば、筋が通っています。②で見たとおり、体は汗で失った水分を取り戻そうとして水とナトリウムを抱え込んでいます。そこへ利尿薬で水を出せば、体はさらに水が足りない状態になる。むくみ対策のつもりが、脱水を進める方向に働きます。
著者の視点
気をつけてほしいのは、過去にどこかで処方された利尿薬が家に残っている場合です。「むくみの薬」として覚えていて、夏に脚が腫れたときに飲んでしまう——これは危ない。夏は、ただでさえ脱水に傾く季節です。
利尿薬は心不全や高血圧のために、その人の状態に合わせて出されている薬です。熱浮腫のために出された薬ではありません。残っている薬を自己判断で飲まないでください。
ただし、医療用の弾性ストッキングとは別物です
看護師として、分けておきたいところです。
市販の着圧ソックスは、立ち仕事や座りっぱなしによるむくみ・だるさを軽くするための製品です。一方、医療用弾性ストッキングは、静脈血栓症の予防や慢性静脈不全の治療のために、圧やサイズを合わせて使うものです。目的も、選び方も違います。
市販の着圧ソックスを履いているから血栓の心配はない、とは考えないでください。長時間の移動や術後など、血栓のリスクが高い場面では、医療者に相談したうえで適切なものを選ぶ必要があります。
著者の視点
夜勤中、私はずっと履いていました。あれがなければもたなかったと思います。ただ当時を振り返ると、サイズも圧も、なんとなくで選んでいました。研究が示すように低めの圧で足りるのなら、無理にきついものを選ぶ理由はありません。むしろきつすぎるものは、食い込んで血流を妨げることがあります。
実践ポイント
- 立ち仕事・夜勤には15〜20 mmHg程度から。きついほど効く、ということはないようです
- サイズは足首周囲・ふくらはぎ周囲を測って選ぶ。丈が合わないと食い込みます
- 履いたまま寝るのは、原則すすめません(就寝時は重力の影響が小さく、日中用の圧は不要です)
- 糖尿病で神経障害がある方、下肢の動脈疾患がある方、皮膚に傷がある方は、自己判断で使わず主治医に相談を。圧迫療法は末梢動脈疾患では禁忌とされ、開始前に足の血流の評価が必要です(文献2)
こんなむくみは、受診を考えてください
この記事でいちばん大事な部分です。
夏のむくみの多くは、暑さによる一時的なものです。ただ、むくみは重い病気の最初のサインでもあります。見分けの軸は単純です。
いちばん重要なのは「片足か、両足か」
浮腫を診るときの基本の枠組みが、そのまま使えます。文献2は、両側性のむくみは心不全・肝疾患・腎疾患のような全身にかかる原因を、片側性のむくみは局所の原因を示唆すると整理しています。
熱浮腫の原因は「暑さ」です。暑さが体の左右どちらかにだけかかることは、まずありません。したがって熱浮腫は両足に出るのが基本だと考えられます。(なお文献1は熱浮腫を「末梢の腫れ」と定義しており、左右差そのものについては明示していません。上は文献2の枠組みから導いた整理です。)
一方、片足だけが腫れている場合は、話がまったく変わります。深部静脈血栓症(DVT)、蜂窩織炎、リンパの流れの障害、静脈の疾患などが考えられます(文献5)。
これは私の意見ではありません。文献1は鑑別診断の項で、熱浮腫を、心不全や肝機能障害による体液の過剰、あるいは下肢の深部静脈血栓症と取り違えてはならないと明記しています。医療者に向けて書かれた注意ですが、そのまま私たちにも当てはまります。
とくに急に(数日以内に)片足が腫れた場合は、すぐに受診してください。臨床の指針でも、急性の片側性下肢浮腫はDVTの評価を直ちに行うべき状況とされています(文献5)。
受診の目安
| こんなとき | 考えられること |
|---|---|
| 片足だけ腫れた(とくに急に) | DVT、蜂窩織炎 ★早めに受診 |
| 痛み・赤み・熱感をともなう | DVT、蜂窩織炎、皮膚の炎症 ★早めに受診 |
| 息切れ・横になると苦しい | 心臓の問題 ★早めに受診 |
| 数日で体重が急に増えた | 体液の貯留 |
| 朝、顔やまぶたがむくむ | 腎臓の問題 |
| 涼しくしても何日も引かない | 一時的な熱浮腫ではない可能性 |
| 押しても跡が残らない硬いむくみ | 甲状腺の問題、リンパ浮腫など |
著者の視点
むくみは、体液のバランスが崩れているという信号です。心臓・腎臓・肝臓・血管——どれが原因でも、むくみという形で表に出ることがあります。だからこそ怖いのは、「夏だからむくんでいるのだろう」で片づけて、片足だけ腫れていることを見落とすことです。
私自身、夏に脚がぱんぱんになるので、むくみを軽く見る癖があります。だから自分にも言い聞かせています。両足か片足か。そこだけは確かめる。鏡越しではなく、両足を並べて見比べてください。
実践ポイント
- むくみに気づいたら、まず両足を並べて見比べる。左右差があるかどうかが最初の分岐点です
- すねの骨の上を10秒ほど指で押してみる。跡が残るか、どのくらいで戻るかが受診時の情報になります
- 服薬中の方は、薬の影響も考えられます(降圧薬の一部、消炎鎮痛薬、ステロイドなど)。自己判断で中止せず、主治医に相談を
- 気になるむくみが続くときは、写真を撮っておくと経過が伝わります
今日からできること
| 場面 | やること |
|---|---|
| 日中 | 1時間に一度は立つ。かかとの上げ下げ20回 |
| 立ち仕事・夜勤 | 15〜20 mmHg程度の着圧ソックス。サイズを測って選ぶ |
| 夕方 | 横になって脚を心臓より高く、10〜15分 |
| 水分 | 控えない。夏はむしろしっかりとる |
| 塩分 | 汗をかいていない日は、足しすぎない |
| 冷房 | 切らない。疑うのは冷房ではなく座っている時間 |
| 暑くなり始め | 梅雨明け直後・帰省・旅行の前後は、脚を上げる時間を多めに。熱中症の搬送も梅雨明け直後に増えやすい時期です |
| 薬 | 家に残っている利尿薬を、むくみの薬として自己判断で飲まない |
| 毎日 | 両足を並べて見比べる。左右差があれば受診 |
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まとめ
夏のむくみの正体は、冷えではありません。熱浮腫という名前がついた、暑さそのものが原因の現象です。日本の熱中症の病態分類(熱失神・熱けいれん・熱疲労・熱射病)には入っていないので、耳慣れないはずです。私も今回はじめて知りました。
しくみは3つ重なっています。熱を逃がすために血管が広がって水分が染み出すこと。汗で水分を失うぶん、体がホルモンを使って水と塩分を抱え込むこと。そこに重力が加わること。
汗をかいて水を失っているのに、むくむ。この逆説を知っておくと、「水を控えればむくみが引く」という誤った対処に向かわずに済みます。控えるべきは水ではなく、必要のない塩分です。
冷房については正直に書きました。理屈のうえでは、冷えると血管は縮むのでむくみは減る方向です。疑うべきは冷房そのものではなく、涼しい部屋で座っていた時間です。
脚を上げることと着圧は、熱浮腫に対して挙げられている標準的な手当てです。ただし着圧は15〜20 mmHg程度で足りるようですし、市販品は医療用の弾性ストッキングとは別物です。一方、利尿薬に役割はないとされています。家に残っている薬を、むくみの薬として飲まないでください。
出るのは暑くなった当日ではなく、1〜2日後です。脚より先に、靴のきつさで気づくこともあります。そして暑さに慣れるには1〜2週間かかるとされているので(この目安は暑い場所で動く人を想定した数字です)、梅雨明けや帰省で急に暑い環境に入る時期は、体がまだ夏用になっていません。
そして最後に、いちばん大事なこと。両足か、片足か。暑さは体の左右どちらかにだけかかるものではないので、熱浮腫は両足に出るのが基本です。片足だけが、それも急に腫れたなら、それは夏のせいではないかもしれません。両足を並べて見比べる。それだけは、習慣にしてください。
医療に関する注意
本記事は健康情報の提供を目的としており、診断・治療・医療行為を推奨するものではありません。むくみは心臓・腎臓・肝臓・甲状腺・静脈やリンパの疾患、薬剤の影響など、さまざまな原因で生じます。とくに片側だけのむくみ、急に生じたむくみ、痛みや赤み・熱感をともなうむくみ、息切れをともなうむくみは、深部静脈血栓症や心不全などの可能性があり、速やかな受診が必要です。服薬中の方は自己判断で薬を中止せず、主治医にご相談ください。着圧ソックスの使用についても、糖尿病性神経障害・下肢動脈疾患・皮膚の傷がある方は、事前に医療者にご確認ください。
【使用文献】
文献1|Leiva DF, Church B. Heat Illness. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; updated 2023 Apr 10. PMID: 31971756 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK553117/ (暑熱関連疾患の総説。熱けいれん・熱浮腫といった軽症から熱射病までを連続したものとして整理。熱浮腫は「血管拡張と重力による体液の貯留により末梢が腫れるもの」と定義。典型例として、それまで慣れていたより暑い環境に移った高齢者に1〜2日後に生じる下肢の腫れを挙げ、患者が手袋や靴のきつさを訴えることがあると記載。治療としては患部の挙上と圧迫衣類が挙げられ、「熱浮腫に利尿薬の役割はない」と明記されている。予後は良好で、暑い環境から離れ水分・電解質を補えば自然に軽快する(self-limited)。鑑別診断の項では、熱浮腫を心不全・肝機能障害による体液過剰や下肢深部静脈血栓症と取り違えないよう注意を促している。予防の項では、暑熱順化の期間として7〜14日、その環境から離れると2〜3週間かけて順化が失われることを記載)
文献2|Goyal A, Singh B, Afzal M. Peripheral Edema. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; updated 2025 Apr 5. PMID: 32119339 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK554452/ (末梢性浮腫の総説。スターリングの法則にもとづき、静水圧と膠質浸透圧のバランスで体液が移動すること、浮腫の成立には「毛細血管からの漏出」と「レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系による腎でのナトリウム・水の貯留」の2段階があることを整理。急性(72時間以内)の腫れはDVT・蜂窩織炎・外傷・薬剤を、片側性は局所の原因を、両側性は心不全・肝疾患・腎疾患などの全身性疾患を示唆すると記載。圧迫療法は末梢動脈疾患では禁忌であり、実施前に足関節上腕血圧比の評価が必要であることも明記。薬剤性浮腫としてカルシウム拮抗薬・ステロイド・NSAIDsなどを列挙)
文献3|Périard JD, Racinais S, Sawka MN. Adaptations and mechanisms of human heat acclimation: applications for competitive athletes and sports. Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports. 2015;25(Suppl 1):20-38. DOI: 10.1111/sms.12408 (暑熱順化の総説。体全体の水分量が2〜3L[約5〜7%]増加すること、その維持にアルドステロンやバソプレシンといった体液保持ホルモンとナトリウムの再吸収が関わることを整理。対象はおもに運動時の暑熱順化であり、日常生活にそのまま当てはまるとは限らない)
文献4|Garcia MG, Roman MG, Davila A, Martin BJ. Comparison of physiological effects induced by two compression stockings and regular socks during prolonged standing work. Human Factors. 2023;65(4):562-574. DOI: 10.1177/00187208211022126. PMID: 34078143 (警備員40名を通常の靴下・15〜20 mmHg・20〜30 mmHgの3群に無作為割付。12時間の立ち仕事の前後で、通常の靴下群では下腿の筋疲労・浮腫・不快感が有意に増加したが、着圧ソックス2群では有意な変化なし。2つの圧で差がなく、著者らは低い圧で十分な可能性を指摘。男性40名のみを対象とした研究である点に注意)
文献5|Patel H, Skok C, DeMarco A. Peripheral edema: evaluation and management in primary care. American Family Physician. 2022;106(5):557-564. https://www.aafp.org/pubs/afp/issues/2022/1100/peripheral-edema.html (プライマリ・ケアにおける末梢性浮腫の評価。経過の長さと左右差が評価の軸であること、急性の片側性下肢浮腫は深部静脈血栓症の評価を直ちに行うべきことを明記)
文献6|環境省環境保健部環境安全課『熱中症環境保健マニュアル2022』 https://www.wbgt.env.go.jp/pdf/manual/heatillness_manual_full.pdf (熱中症に関する国内の基幹資料。病態からみた分類として熱失神・熱けいれん・熱疲労・熱射病の4つを示し、救急処置は病態ではなくⅠ〜Ⅲ度の重症度で判断するのがよいとする。熱浮腫はこの分類に含まれていない。また、記録的な猛暑となった2010年について、厳しい暑さが続いた3期間のうち搬送数・死亡数が急増したのは7月17日の梅雨明け直後の期間のみであり、「多くの人が暑さに慣れていなかったこと」が原因と考えられること、8月後半は暑さ指数が同等以上でも搬送数が減っており、その違いは暑熱順化によると考えられると説明。※本マニュアルは2022年版であり、2010年の死亡数を当時の最多として記載しているが、その後の猛暑で記録は更新されている。熱中症になりやすい人として「暑さに慣れていない人」を、日常生活の注意事項として「急に暑くなる日に注意」「暑さに備えた体づくり」を挙げている)


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