エコノミークラス症候群の予防法|GWの長距離移動で気をつけることをエビデンスで解説

健康習慣(全般)

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GWの帰省や旅行で長時間の移動をした後、足がむくんだり重だるさを感じた経験はありませんか。それは「エコノミークラス症候群」の予備症状かもしれません。

エコノミークラス症候群は飛行機だけでなく、車・バス・新幹線などの長距離移動でも発症します。本記事では、発症のメカニズム・なりやすい人の特徴・エビデンスにもとづいた予防法を解説します。


エコノミークラス症候群とは|医学的な正式名称

「エコノミークラス症候群」は俗称で、正式には旅行関連静脈血栓塞栓症(Travel-related VTE:Venous Thromboembolism)と呼ばれます。長時間の座位による血流停滞で脚の静脈に血栓(血の塊)ができる「深部静脈血栓症(DVT)」と、その血栓が肺に流れて起きる「肺塞栓症(PE)」の総称です。

Yıldırımら(2021年)のレビューでは、VTEは心筋梗塞・脳梗塞に次ぐ血管疾患死因の第3位であり、入院患者における予防可能な死亡原因の中で最も多いとされています【1】。

著者の視点:「エコノミークラスに乗る人の病気」というイメージがありますが、実際にはビジネスクラスや車・バス移動でも発症します。座位が長時間続くこと自体がリスクであり、移動手段や座席クラスは関係ありません。GWの長距離ドライブも同様に注意が必要です。


どのくらいの人が発症するのか|実際のリスク

Scurrら(2001年)のランダム化比較試験(Lancet掲載)では、予防措置なしで長距離フライトに乗った乗客の最大10%に無症状のDVTが発生することが示されています【2】。

またTrujillo-Santosら(2011年)のレビューでは、4時間以上のフライトでVTEのリスクが約2倍になることが疫学研究から示されており、フライト時間が長くなるほどリスクが累積することも指摘されています【3】。

一般人口における年間発症率は1/1,000程度とされていますが、長距離移動者では0.4〜3/10,000フライトとの報告もあり、無症状例を含めると実態はより高い可能性があります【1】。


発症のメカニズム|なぜ血栓ができるのか

血栓形成の原因は、19世紀の外科医ウィルヒョウが提唱した「ウィルヒョウの三徴」で説明されます。

要因長距離移動での具体例
① 血流の停滞長時間の座位で脚の筋肉ポンプが働かず血流が滞る
② 血液凝固能の亢進機内の低湿度・水分不足による脱水、アルコール摂取
③ 血管壁の損傷座席のエッジによる膝裏・太もも裏への圧迫

これら3つが重なることで血栓が形成されやすくなります。特に機内は湿度が10〜20%と極めて低く、気づかぬうちに脱水が進みやすい環境です。


なりやすい人の特徴|リスクファクター

リスクが高い方(特に注意が必要)

  • 65歳以上の高齢者
  • 肥満(BMI 30以上)
  • 過去に深部静脈血栓症・肺塞栓症の既往がある
  • 経口避妊薬・ホルモン療法を使用中
  • 妊娠中・産後間もない方
  • 悪性腫瘍(がん)の治療中
  • 直近に手術・外傷を受けた方
  • 下肢静脈瘤がある方

なお日本では、欧米と比較して女性のリスクが相対的に高い傾向が報告されており、その理由は完全には解明されていません【4】。


エビデンスにもとづいた予防法3選

① 弾性ストッキングの着用(最もエビデンスが強い)

Clarkeら(2021年)のコクラン系統的レビュー(RCT9本・2,821人)では、弾性ストッキング着用群のDVT発症率は0.16%であったのに対し、非着用群は3.64%と、着用によって絶対リスクが3.4%低下することが示されています【5】。症状のあるDVTは両群ともゼロでしたが、無症状の血栓形成を大幅に抑制することが確認されています。

実践ポイント: 膝下丈のグラデッド弾性ストッキング(クラスI)を移動前に着用し、到着まで履き続ける。市販の着圧ソックスでも代用可能。

② こまめな水分補給

機内の低湿度環境では不感蒸泄(皮膚や呼吸からの水分散失)が増加し、脱水が血液粘度を高めて血栓リスクを上げます。アルコールやカフェインには利尿作用があるため、移動中は水またはノンカフェイン飲料を1時間あたり200mL程度を目安に補給しましょう。

③ 定期的な足首・ふくらはぎの運動

座ったまま行える簡単な運動で血流を促進できます。

  • 足首の上下運動:かかとを床につけたままつま先を上下に動かす(1〜2時間に10〜20回)
  • ふくらはぎの収縮:つま先立ちの動作を座ったまま繰り返す
  • 通路を歩く:飛行機・新幹線では1〜2時間に1回立って歩く

ふくらはぎは「第二の心臓」と呼ばれ、筋ポンプ作用で血液を心臓に押し戻す役割があります。長時間の座位ではこのポンプが機能しないため、意識的に動かすことが重要です。


症状が出たらどうするか|受診の目安

以下の症状がある場合は速やかに医療機関を受診してください

  • 片側の足(ふくらはぎ〜太もも)の腫れ・痛み・熱感・赤み
  • 突然の息切れ・呼吸困難
  • 胸の痛み・動悸
  • めまい・失神

肺塞栓症は急速に悪化する場合があり、移動後48〜72時間以内に発症するケースが多いです。移動後に上記の症状が出た場合は自己判断せず、救急受診を検討してください。


まとめ

  • エコノミークラス症候群は飛行機だけでなく車・バスでも発症する
  • 予防措置なしの長距離フライトでは最大10%にDVTが発生する
  • 4時間以上の移動でVTEリスクは約2倍になる
  • 最もエビデンスが強い予防法は弾性ストッキングの着用(DVT発症率を3.4%低下)
  • 水分補給と定期的な足の運動を組み合わせることが重要
  • 移動後48〜72時間以内に足の腫れや息切れが出たら速やかに受診

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瀬戸 茉莉花

看護師として大学病院・公立病院で臨床を経験後、現在も大学教員として17年間、看護学生の教育と生活習慣病予防の研究に携わっています。看護師・保健師。保健学博士。2児の母として、子育てをしながら情報発信中。
人の幸せの根底には、健康があると思っています。健康だからこそ、大切な人と楽しい時間を少しでも多く過ごせる。そのために健康オタク仲間を増やして、みんなで人生の最後まで元気でいたい。そんな思いでこのブログを書いています

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【使用文献】

  1. Şabanoğlu C. “The secret enemy during a flight: Economy class syndrome.” Anatol J Cardiol. 2021;25(Suppl 1):13-17. doi:10.5152/AnatolJCardiol.2021.S106. PMC8412040.
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8412040/
  2. Scurr JH, Machin SJ, Bailey-King S, et al. “Frequency and prevention of symptomless deep-vein thrombosis in long-haul flights: a randomised trial.” Lancet. 2001;357(9267):1485-1489. PMID: 11377600.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11377600/
  3. Signorelli C, Pasquarella C, Trabacchi V, et al. “Sindrome della classe economica: aspetti epidemiologici e misure preventive.” Ig Sanita Pubbl. 2011;67(2):169-89. PMID: 21654863.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21654863/
  4. Morio H. “[Economy class syndrome].” Nihon Rinsho.2003;61(10):1805-10. PMID: 14577308.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/14577308/
  5. Clarke MJ, et al. “Compression stockings for preventing deep vein thrombosis in airline passengers.” Cochrane Database Syst Rev.2021;4:CD004002. PMID: 33878207.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33878207/

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