夏になると、家庭で測る血圧の数字が下がる。心当たりのある方は多いと思います。
「暑くて血管が広がっているのだろう」「薬が効きすぎているのかもしれない」。受け取り方はさまざまです。なかには、下がった数字を見て薬を減らそうかと考える方もいるかもしれません。
この記事では、夏の血圧に何が起きているのかを、査読を経た研究をたどって整理します。先に申し上げておくと、下がるのは昼の血圧です。夜の血圧は下がりません。
夏、血圧は確かに下がります
下がること自体は、複数の研究が示しています。
ギリシャで行われた研究では、降圧薬の内容を変えずに過ごした高血圧患者を、冬と夏に測定しました。解析されたのは60名、平均年齢は65歳ほどです。診察室でも、家庭でも、24時間の携帯型血圧計の日中の値でも、夏は冬より低くなっていました。
この研究は翌年の冬にも測定しています。3回すべてのデータが揃った37名では、翌年の冬に、最初の冬と同じ水準まで戻っていました。
日本のデータもあります。降圧薬を飲んでいる1,649名の家庭血圧を長期に追跡した研究(HOMED-BP)では、1年のなかでの最大と最小の差が収縮期6.7 mmHg、拡張期2.9 mmHgでした。いちばん高くなるのは、1月の中旬から下旬です。
夏に下がって冬に上がるという動きは、日本でも報告されている、ということになります。
著者の視点: この「戻る」というところが大事だと考えています。夏の低さは、その季節だけの一時的な状態です。体質が変わったわけでも、病気が良くなったわけでもありません。
実践ポイント
- 夏だけ測るのをやめない。同じ時間・同じ姿勢で、年間を通じて記録を残す
- 記録には日付を入れる。あとから季節ごとの動きを見返せます
- 数字が下がっても、それは季節の変化かもしれません。判断は次の受診まで持ち越す
ただし、下がるのは昼だけです
同じギリシャの研究には、続きがあります。24時間の測定を、日中と夜間に分けて見たものです。
冬から夏にかけての変化です(mmHg。マイナスは低下を表します)。
| 測定法 | 収縮期 | 拡張期 |
|---|---|---|
| 診察室(座って測定) | −7.0 | −1.9 |
| 家庭血圧 | −4.9 | −2.9 |
| 日中(24時間計) | −6.6 | −3.5 |
| 夜間(24時間計) | 有意な変化なし | 有意な変化なし |
診察室でも、家庭でも、日中でも、はっきり下がっています。ところが夜間だけは、統計学的に意味のある変化がありませんでした。
昼だけが下がって夜が下がらないと、24時間のなかで血圧が平らになります。本来、眠っているあいだの血圧は下がるものですが、その下がり幅が小さくなるのです。この型をノンディッパーと呼びます。3回すべての測定がそろった37名で見ると、ノンディッパーの割合は冬の55%から夏の85%へ増えていました。
なぜ夜だけ下がらないのか。著者らは、寝床のなかの温度は布団や体温で調節されるため、冬も夏もそれほど変わらないのではないかと考察しています。加えて、暑さによる寝苦しさが睡眠を細切れにすることも関係するかもしれない、とも書いています。いずれも仮説であって、確かめられたものではありません。
著者の視点: ノンディッパーが増えることが、体にとって何を意味するのか。ここについて論文は「その帰結は分かっていない」とはっきり書いています。読んでいて信頼できると感じたのは、この一文があったからです。分かっていることと分かっていないことの線が、きちんと引かれています。
実践ポイント
- 家庭血圧は、朝と晩の両方を測る。片方だけでは、昼と夜の動きの違いが見えません
- 夜間の血圧は、24時間計か夜間に測れる機種でないと分かりません。気になる場合は主治医に相談を
- 「昼の数字が下がった」ことを、「24時間下がった」と読み替えない
日本のデータでも、夜は下がっていません
ギリシャの60名という規模では、これだけで結論にはできません。日本にも、確かめられるデータがあります。
滋賀県長浜市の一般住民4,780名を対象にした研究です。家庭用の血圧計で、夕方・睡眠中・朝の血圧を複数日にわたって測定しました。特徴は、眠っている時間を活動量計で客観的に判定している点です。本人の申告ではありません。
| 測定した季節 | 夜間の血圧の変化(マイナスは低下) | ノンディッパー | ライザー(夜のほうが高い型) |
|---|---|---|---|
| 夏 | −5.8% | 51.4% | 19.9% |
| 春・秋 | −8.2% | 46.3% | 12.8% |
| 冬 | −11.0% | 37.0% | 7.8% |
夜のあいだの下がり幅は、冬の11.0%に対して夏は5.8%。半分ほどです。そして、夜のほうがむしろ高くなるライザーという型が、冬の7.8%から夏は19.9%へ、2倍以上に増えていました。なお、ノンディッパーとライザーは別々の分類です。足し合わせる数字ではありません。
ギリシャの60名で見えたことが、日本の4,780名でも同じ方向に出ています。
ただし、この研究は横断研究です。同じ人を夏と冬に追いかけたのではなく、夏に測った人と冬に測った人を比べています。測定期間も6月から2月までで、3月から5月が含まれていません。季節による血圧の型の変化については、エビデンスの水準がまだ低いという指摘もあります。
ここで、研究者のあいだで見解が割れている点を、はっきりさせておきます。
夜の下がり幅が小さくなること。これは、ギリシャの研究も長浜スタディも一致しています。
割れているのは、夜間の血圧そのものが上がるのかどうかです。
ギリシャの研究では、夜間血圧に意味のある変化はありませんでした。一方、日本には「上がる」と報告したデータがあります。全国の医療機関で2,544名(平均63歳、9割が高血圧)の家庭血圧を、朝と晩に加えて午前2時・3時・4時にも測った研究です。抄録に記載されている範囲では、夜間の家庭収縮期血圧は夏がもっとも高く、冬がもっとも低いという結果でした(夏123.3、冬119.3 mmHg)。
ギリシャの研究の著者らは、この食い違いについて自分たちで検討しています。「上がる」とした研究の多くが横断研究であること、そして参加者が夏に自己判断で薬を減らしていた可能性があること。この二つが、夜間血圧の上昇を部分的に説明するかもしれない、というのが著者らの見立てです。
長浜スタディも、いま挙げた2,544名の研究も、どちらも横断研究です。「夜の下がり幅が小さくなる」まではどの研究も言えますが、「夜間血圧そのものが上がる」まで踏み込むかどうかは、まだ意見が分かれています。
著者の視点: 規模も測り方も違う研究が、夜の下がり幅については同じ方向を指している。これは偶然ではないだろうと受け止めました。ただ、そこから先——夜間血圧そのものが上がるのかどうかは、研究によって景色が違って見えます。
実践ポイント
- 日本のデータでも、夏に夜の血圧が下がりにくくなることが報告されています
- 寝室の温度を整えることは、日本の総説でも推奨に挙げられています
- ただし「夏の夜は危ない」という話ではありません。分かっているのは、血圧の動き方までです
下がりすぎる人も、4人に1人います
夏の低下は、全員に同じだけ起きるわけではありません。
ギリシャの研究では、夏に日中の収縮期血圧が110 mmHgを下回った人が、60名中15名(25%)いました。4人に1人です。
著者らは、この110 mmHgという線引きについて「やや恣意的だ」と正直に書いています。そのうえで、「最適な管理についてのガイドラインは存在しない。介入研究がないからだ」とも述べています。そして、この研究の参加者の25%については、薬の減量を検討すべきだったのではないか、と考察しています。
なお、これは医師が判断することです。血圧の値だけを見て、自分で薬を減らしてよい、ということにはなりません。
では、誰が下がりやすいのか。この研究で夏の低下が大きかったのは、冬の血圧が高い人、季節による気温差が大きい条件の人、女性、そして利尿薬を使っている人でした。70歳を超えた人でも同じ傾向がみられています。
起立時の症状も、冬より夏に多く報告されました。症状が多かったのは、女性と、α遮断薬を使っている人です。ただし、症状が増えた13名とそれ以外で血圧の低下幅を比べると、統計学的に意味のある差にはなっていません。
なお、日本のHOMED-BPでは、年間の振幅が大きいのは男性でした。ギリシャの研究とは逆に見えますが、測っているものが違います。片方は夏の低下幅、もう片方は1年間の最大と最小の差です。集団も国も違います。どちらかが正しい、という読み方はできません。
著者の視点: 「4人に1人」を多いと見るか少ないと見るか。私が引っかかったのは、これが治療中の高血圧患者を対象にした研究だという点です。血圧を下げるために通院している人の4人に1人が、夏には下がりすぎの水準に入っていた。管理の目標そのものが季節で動く、ということです。
実践ポイント
- 立ちくらみ、ふらつき、朝の強い倦怠感。夏にこうした症状が出たら、我慢せず記録して受診時に伝える
- 利尿薬やα遮断薬を使っている方は、夏の血圧を特に注意して見る
- 収縮期110 mmHgは目安のひとつにすぎません。数字だけで判断せず、症状と合わせて主治医に相談を
昼の数字だけで、薬を判断しない
ここまでを合わせると、夏の血圧は昼と夜で違う動きをしています。昼は下がる。夜は下がらない。
日本の研究グループによる総説は、この二つをこう整理しています。冬は日中の血圧が上がり、夏は夜間の血圧が上がる。夏の夜間上昇は気温そのものが主な原因ではなく、暑さによる不快感と睡眠の質の低下に関係していると考えられている、と。
先ほど書いたとおり、この「夜間血圧そのものが上がる」という点には異論があります。それでも、昼と夜が同じ方向に動くわけではないことは、どの研究も一致しています。
そのうえで、この総説は実務上の注意をひとつ挙げています。医師は、夏に日中の血圧が下がったのを見て降圧薬を減らすことが多い。それが夜間の血圧上昇に寄与している可能性がある。そう書かれています。
夜間の血圧は、24時間計か夜間に測れる家庭用血圧計でなければ分かりません。上がっていても、気づかれにくいのです。
夜間血圧を測った2,544名の研究には、続きがあります。昼の家庭血圧(朝と晩の平均)が135 mmHg未満に収まっているのに、夜間だけ120 mmHg以上ある。この状態を仮面夜間高血圧と呼びます。抄録に記載されている範囲では、その頻度は夏45.6%、冬24.9%でした。
さらに、朝の家庭血圧を125 mmHg未満まできっちり抑えている人に限っても、夏は27.4%、冬は9.0%です。この層の頻度そのものは全体より低いのですが、夏と冬で3倍の開きがあることは変わりません。昼をしっかり抑えられていても、夏の夜は別、ということになります。
なお、同じJ-HOP研究の別の横断解析(4,267名)では、朝と晩の家庭血圧で見た仮面高血圧は、夏がいちばん少ないと報告されています。昼で見れば夏は少なく、夜で見れば夏は多い。対象人数が違うので同じ人たちの比較ではありませんが、見つかりやすさが昼と夜で逆を向いていることは、日本のデータにも表れています。
総説が挙げている対応は、次のようなものです。年間を通じて家庭血圧を測ること。冬と夏が来る前に、早めに薬を調整すること。室温や住環境を整えること。
ちなみに、2020年に発表された別の論考は、当時の2017年アメリカ版と2018年ヨーロッパ版のガイドラインに、血圧の季節変動についての記載がないことを指摘しています。実地の医師に向けた推奨も示されていない、と。なお、ヨーロッパでは2023年に新しいガイドラインが出ていますが、そこで季節変動がどう扱われているかは、今回確認できていません。
著者の視点: この総説の著者のひとりは、同じ雑誌の2023年の論考で、血圧計メーカー3社から研究資金を受けていることを開示しています。きちんと開示されているので、隠れているわけではありません。ただ、「家庭で血圧を測りましょう」という推奨を読むときには、併せて頭に入れておきたいところです。
実践ポイント
- 自己判断で降圧薬をやめたり、減らしたりしない。必ず主治医に相談する
- 家庭血圧の記録を持って受診する。一日の数字より、季節を通した動きのほうが役に立ちます
- 薬の調整は、夏や冬が来てからではなく、その前に相談しておく
それで、夏の血圧とどうつき合うか
ここまで、気をつけることばかり並べてきました。最後に、できることをまとめます。
年間を通じて記録すること。これがいちばん確かです。夏の低い数字も、冬の高い数字も、1年分の記録のなかに置けば「季節のもの」だと分かります。1回の数字に振り回されずに済みます。日本の降圧薬服用者1,649名のデータでは、家庭血圧は1年のなかで収縮期6.7 mmHg動いていました。この幅を知っているかどうかで、数字の受け取り方は変わります。
朝と晩の両方を測ること。昼と夜で動きが違うのですから、片方だけでは半分しか見えません。
記録を持って受診すること。その日の数字より、季節を通した動きのほうが、医師にとっては判断材料になります。冬と夏が来る前に早めに薬を調整するという総説の推奨も、年間の記録があってはじめて成り立ちます。
夏に血圧が下がること自体は、悪いことではありません。下がったという数字を、その場かぎりで受け取るか、1年の流れのなかに置くか。違いはそこにあります。
著者の視点: 書きながらいちばん強く感じたのは、季節という当たり前のものが、これほど長く扱われてこなかったということでした。ガイドラインに記載がなく、減量の基準もない。それでも毎年、夏は来ます。論文が追いつくのを待たずに手元でできるのが記録だけ、というのは心もとない話です。ただ、その記録が、次に医師と話すときの材料になります。
実践ポイント
- 家庭血圧は、朝と晩、年間を通じて記録する。日付を必ず入れる
- 受診のときは、その日の数字ではなく、記録全体を持っていく
- 夏や冬が来る前に、薬について相談する機会をつくる
医療に関する注意
この記事は、査読を経た研究をもとに情報を整理したものであり、診断や治療の指針を示すものではありません。
降圧薬の量や飲むタイミングを、自己判断で変えないでください。血圧が下がっているように見えても、それが薬を減らしてよい理由になるとは限りません。この記事で紹介した研究の著者ら自身が、最適な管理についてのガイドラインは存在しないと述べています。
立ちくらみ、ふらつき、失神、強い倦怠感などがある場合は、次の受診を待たずに医療機関にご相談ください。持病のある方、治療中の方、妊娠中・授乳中の方は、主治医の指示に従ってください。
あわせて読みたい
使用文献
- Stergiou GS, Myrsilidi A, Kollias A, Destounis A, Roussias L, Kalogeropoulos P. Seasonal variation in meteorological parameters and office, ambulatory and home blood pressure: predicting factors and clinical implications. Hypertension Research. 2015;38(12):869-875.
- Hanazawa T, Asayama K, Watabe D, Imai Y, et al. Seasonal variation in self-measured home blood pressure among patients on antihypertensive medications: HOMED-BP study. Hypertension Research. 2017;40:284-290.
- Tabara Y, Matsumoto T, Murase K, Nagashima S, Kosugi S, Nakayama T, et al.; Nagahama Study Group. Seasonal variation in nocturnal home blood pressure fall: the Nagahama study. Hypertension Research. 2018;41:198-208.
- Barbosa ECD, Farina GS, Basso CS, Camafort M, Coca A, Nadruz W. Seasonal variation in blood pressure: what is still missing? Frontiers in Cardiovascular Medicine. 2023;10:1233325.
- Narita K, Hoshide S, Kanegae H, Kario K. Seasonal Variation in Masked Nocturnal Hypertension: The J-HOP Nocturnal Blood Pressure Study. American Journal of Hypertension. 2021;34(6):609-618.(本記事では抄録に記載されている範囲のみを引用しています)
- Narita K, Hoshide S, Kario K. Seasonal variation in blood pressure: current evidence and recommendations for hypertension management. Hypertension Research. 2021;44:1363-1372.
- Narita K, Hoshide S, Fujiwara T, Kanegae H, Kario K. Seasonal Variation of Home Blood Pressure and Its Association With Target Organ Damage: The J-HOP Study (Japan Morning Surge-Home Blood Pressure). American Journal of Hypertension. 2020;33(7):620-628.(同上)
- Stergiou GS, Palatini P, Kollias A, Kyriakoulis KG, Myers M, O’Brien E, Parati G, Modesti PA. Seasonal Blood Pressure Variation: A Neglected Confounder in Clinical Hypertension Research and Practice. American Journal of Hypertension. 2020;33(7):595-596.
- Narita K, Kario K. Management of seasonal variation in blood pressure through the optimal adjustment of antihypertensive medications and indoor temperature. Hypertension Research. 2023;46:806-808.
※本記事は健康情報の提供を目的としており、診断・治療・医療行為を推奨するものではありません。症状や体調についての具体的なご相談は、医師または薬剤師にご確認ください。


コメント