五月病は気の緩みではない|なりやすい人の特徴とセルフケアを保健学博士が解説

季節の変わり目・連休

新年度が始まって1か月。連休が明けたころから「会社に行きたくない」「何もやる気が起きない」「夜になっても眠れない」といった不調が出てきます。いわゆる五月病です。世間では「気が緩んだ」「甘えている」と語られがちですが、私はその見方に同意できません。この記事では、五月病が医学的にどう位置づけられるのか、どんな人に起こりやすいのか、そして何をすればよいのかを、査読論文をもとに整理します。

五月病とは何か|医学的な位置づけ

五月病は正式な医学用語ではありません。進学・就職・異動といった環境の変化に心身が追いつかず、連休明けごろに表れる不調を指す通称です。

医学的には適応障害として扱われることが多く、背景に不眠症やうつ病が隠れている場合もあります。適応障害は、臨床の現場では頻繁に診断される一方で、実態の研究や治療の根拠がまだ限られていることが指摘されています(Carta MG, et al. Clin Pract Epidemiol Ment Health. 2009)。

著者の視点:毎年5月になると、送り出した卒業生が休職した、という話が決まって数名分は耳に入ってきます。国家試験を越え、あれほど意欲を持って現場へ出て行った人たちです。そして私の実感では、まじめで優秀だった学生ほど5月に休んでいる。ここからは研究の裏づけではなく、17年間見てきた者の個人的な観察ですが、まじめな人ほど自分に高い基準を課し、できない自分を人に見せられない。手を抜ける人はそもそも張り詰めません。ぎりぎりまで力を出して4月を走り抜けた人ほど、5月に糸が切れる。だから私は、五月病を気の緩みとは呼びません。

ただし、これは「優秀な人だけがなる」という意味ではありません。環境が大きく変われば、誰にでも起こりえます。当てはまらないと感じた方も、つらさがあるならそれは本物です。

実践ポイント:まず「これは自分の弱さではない」と切り分けてください。環境の変化に体と心が追いつかない時期がある、というだけの話です。自分を責めることは、回復をむしろ遅らせます。

どれくらいの人に起こるのか

適応障害は珍しいものではありません。ICD-11の基準を用いたスイスの調査では、非自発的に職を失った人を対象とした集団で、12か月有病率が15.5%(男性13.8%、女性17.2%)と報告されています(Perkonigg A, et al. Int J Clin Health Psychol. 2018)。

ここで大事なのは、この15.5%が一般の人口全体の数字ではないという点です。失業という大きなストレスを経験した高リスクの集団での割合であり、そのまま「日本人の6人に1人」といった読み方はできません。それでも、環境が大きく変わった人たちのあいだでは、これほどの割合で起こりうるという目安にはなります。

著者の視点:数字を大きく見せたくなる誘惑はありますが、対象がどんな集団かを外して語ると、読む人の判断を狂わせます。「大きな変化を経験した人には、それだけ起こりやすい」。そう受け取っていただくのが正確です。

実践ポイント:この春に転職・異動・進学・引っ越しなど大きな変化があった方は、5月の不調を「よくあること」として想定しておいてください。予期しているだけで、実際に起きたときの動揺は小さくなります。

放っておくとどうなるか

適応障害は一過性で済むことも多いのですが、そのまま長引いたり、より重い状態へ移行したりすることもあります。

外傷(けが)で入院した人を追跡したオーストラリアの研究では、受傷3か月の時点で適応障害と診断された人のうち、約35%が12か月後も適応障害の診断基準を満たし、約21%はPTSDやうつ病、不安障害といったより重い状態へ移行していたと報告されています(O’Donnell ML, et al. Am J Psychiatry. 2016)。

ただしこれは、けがによる外傷を経験した集団のデータで、職場の環境変化による五月病をそのまま調べたものではありません。数字を五月病に直接あてはめることはできません。それでも「適応障害は自然に消えるとは限らない」という警告としては受け止める価値があります。

著者の視点:私が伝えたいのは「怖がってください」ではなく「様子見を続けすぎないでください」ということです。多くは環境に慣れて回復します。ただ、一定の割合で長引く人がいる。その可能性を知っておくだけで、相談のタイミングを逃さずに済みます。

実践ポイント:目安は2〜3週間です。休んでも改善しない、朝がまったく起きられない、食事がとれない。このいずれかが2〜3週間続くなら、セルフケアの段階を超えています。

なりやすい人の特徴

① まじめで責任感が強い 「ちゃんとやらなければ」と自分に高い基準を課し、弱音を出せないまま疲労を溜め込みます。

② 変化への適応に時間がかかる 4月に張り詰めていた緊張が、少し慣れてきた5月にほどけ、そのタイミングで症状として表れます。

③ 相談を抱え込む こころの不調は、体の不調に比べて家族や職場に相談されにくく、孤立が悪化につながりやすい傾向があります。

④ 理想と現実の落差が大きい環境にいる 期待を持って新しい環境へ入った人ほど、現実とのギャップに直面したときの落差が深くなります。看護の分野では、新人が役割移行の初期に多方面の変化へ一度に直面する状態が「トランジションショック(transition shock)」として整理されています(Duchscher JEB. J Adv Nurs. 2009)。これは看護に限らず、新しい職場や学校に入ったすべての人に通じる構図です。

著者の視点:①と④は重なりやすい組み合わせです。高い理想を持ち、まじめに準備してきた人ほど、現実との差に打ちのめされる。私が見てきた休職の多くは、この重なりの上で起きているように思います。

実践ポイント:自分に当てはまる項目が2つ以上あるなら、5月は意識的にペースを落としてください。「頑張りどき」ではなく「持ちこたえどき」と考えるほうが、結果的に長く働けます。

セルフケア3つ

ここから紹介するのは、軽い段階で崩れきらないための支えです。すでにつらさが強い方、日常生活が回らなくなっている方は、セルフケアを頑張るより先に相談してください(受診の目安は次の章にまとめています)。まじめな方ほど「まず自分で何とかしなければ」と抱え込みがちですが、早く相談した人ほど回復も早い、というのが現場で見てきた実感です。

① 起床時刻を固定する

連休で乱れた体内時計は、五月病の不調を底上げします。休日も平日と同じ時刻に起き、起床後30分以内に日光を浴びてください。就寝時刻より起床時刻を揃えるほうが、リズムは整いやすくなります。

② 軽い運動を1日10〜20分

運動とうつの関係を調べた大規模なネットワークメタ解析(ランダム化試験218本・約14,000人)では、ウォーキングやジョギングが抑うつ症状の軽減と関連し、効果の大きさは他の運動と比べても上位でした(Noetel M, et al. BMJ. 2024)。ただし注意点が2つあります。ひとつは、著者らがウォーキング・ジョギングについてエビデンスの確実性を「低い」と評価していること。もうひとつは、この研究が対象にしたのがうつ病であり、五月病(適応障害)そのものへの効果を調べたものではないことです。確実な治療法として過大に受け取らず、取り入れやすいセルフケアの一つと考えるのが妥当です。

③ 「今日やること」を3つに絞る

将来への漠然とした不安が、五月病の消耗を大きくします。今日やることを3つだけ書き出し、それ以外は考えない。小さな達成の積み重ねが、失われた自信を戻していきます。

著者の視点:3つとも地味です。でも、この時期に必要なのは劇的な回復ではなく、崩れきらないための支えだと考えています。とくに起床時刻の固定は、意志の力をほとんど使わずにできる点で優れています。

実践ポイント:全部やろうとせず、起床時刻の固定から始めてください。それが1週間続いたら、次に散歩を足す。順番をつけるのがコツです。

受診の目安と相談先

次のいずれかに当てはまる場合は、心療内科・精神科への相談を検討してください。

  • 症状が2〜3週間以上続いている
  • 食事がとれない、体重が大きく変化している
  • 強い無力感や絶望感がある
  • 仕事や学業に明らかな支障が出ている

休職は失敗ではありません。回復のために必要な、正当な選択肢のひとつです。早めに手を打った人ほど、戻るまでの時間は短くなります。

つらい気持ちが強いときは、一人で抱えずに次の窓口を使ってください。

  • こころの健康相談統一ダイヤル:0570-064-556(平日9〜21時/土日祝10〜16時。かけた地域の公的な相談窓口につながります)
  • よりそいホットライン:0120-279-338(24時間・通話無料。夜間や早朝でもつながります)

夜中に気持ちが沈んで苦しいときは、24時間対応のよりそいホットラインを使ってください。

著者の視点:教育者として何より伝えたいのは、休むことを選んだ人を「脱落した」と見ないでほしいということです。休職して戻り、その後も長く働いている卒業生を何人も知っています。

実践ポイント:受診をためらう方は、まず産業医や学校の相談室、かかりつけ医でも構いません。入り口はどこでも大丈夫です。

まとめ

五月病は、医学的には適応障害として扱われることが多い、環境変化への反応です。気の緩みでも甘えでもありません。むしろ、まじめに準備し、高い理想を持って新しい環境に飛び込んだ人ほど、現実との落差に直面しやすい。セルフケアの柱は、起床時刻の固定・軽い運動・やることを絞ること。そして2〜3週間たっても改善しないなら、専門家に相談してください。休むことは、立て直すための手段です。

医療に関する免責事項

本記事は、査読済みの学術論文をもとにした一般的な健康情報の提供を目的としており、特定の診断・治療・予防を推奨したり、医師その他の医療専門職による助言に代わるものではありません。紹介した研究は対象となる集団や状況が限られており(失業を経験した集団、外傷後の集団など)、すべての方に同じ数値が当てはまるわけではありません。気分の落ち込みや不眠が続く場合、日常生活に支障が出ている場合は、自己判断で対処を続けず、医療機関にご相談ください。

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主な参考資料

  1. Carta MG, Balestrieri M, Murru A, Hardoy MC. Adjustment Disorder: epidemiology, diagnosis and treatment. Clin Pract Epidemiol Ment Health. 2009;5:15. PMID: 19558652
  2. Perkonigg A, Lorenz L, Maercker A. Prevalence and correlates of ICD-11 adjustment disorder: Findings from the Zurich Adjustment Disorder Study. Int J Clin Health Psychol. 2018;18(3):209-217. DOI: 10.1016/j.ijchp.2018.05.001. PMID: 30487926
  3. O’Donnell ML, Alkemade N, Creamer M, et al. A Longitudinal Study of Adjustment Disorder After Trauma Exposure. Am J Psychiatry. 2016;173(12):1231-1238. DOI: 10.1176/appi.ajp.2016.16010071. PMID: 27771970
  4. Duchscher JEB. Transition shock: the initial stage of role adaptation for newly graduated Registered Nurses. J Adv Nurs. 2009;65(5):1103-1113. DOI: 10.1111/j.1365-2648.2008.04898.x
  5. Noetel M, Sanders T, Gallardo-Gómez D, et al. Effect of exercise for depression: systematic review and network meta-analysis of randomised controlled trials. BMJ. 2024;384:e075847. DOI: 10.1136/bmj-2023-075847. PMID: 38355154

瀬戸 茉莉花

看護師として大学病院・公立病院で臨床を経験後、現在も大学教員として17年間、看護学生の教育と生活習慣病予防の研究に携わっています。看護師・保健師。保健学博士。2児の母として、子育てをしながら情報発信中。
人の幸せの根底には、健康があると思っています。健康だからこそ、大切な人と楽しい時間を少しでも多く過ごせる。そのために健康オタク仲間を増やして、みんなで人生の最後まで元気でいたい。そんな思いでこのブログを書いています

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