数年前から続く、もち麦ブーム。「体にいいらしい」と食べている方も多いと思います。その理由の中心にあるのが、水溶性食物繊維の「β-グルカン」です。β-グルカンには、食後血糖の急な上昇をゆるやかにし、さらにLDL(悪玉)コレステロールを下げる働きが報告されています。血糖値と動脈硬化の両方に効く食材は多くなく、もち麦はその数少ないひとつです。この記事では、もち麦の何がどう効くのかを成分レベルで、動脈硬化予防を専門にしてきた立場から、誇張せずに整理します。
もち麦の正体は「β-グルカン」という水溶性食物繊維
もち麦は、大麦のうち「もち性」の品種を指します。注目すべきは、もち麦に多く含まれるβ-グルカンという水溶性食物繊維です。β-グルカンは水を含むとゲル状になり、独特のとろみ・粘りを生みます。この“粘り”こそが、後で述べる血糖やコレステロールへの働きのカギになります。
ちなみに、私たちが主食にしている白米には、この水溶性食物繊維はほとんど含まれていません。同じ「ごはん」でも、もち麦を混ぜるだけで栄養の中身が変わってきます。
著者の視点:食物繊維というと「便通」の話に偏りがちですが、β-グルカンの面白さは血糖や血管にまで届く点にあります。もち麦は、手軽に主食を“機能性のある一品”に変えられる、めずらしい食材だと感じています。
実践ポイント:まずは白米に3割ほど混ぜて炊く「3割もち麦」から。特別な調理はいらず、いつものごはんに置き換えるだけで始められます。
① 食後血糖の急な上昇をゆるやかにする
もち麦を食べると、β-グルカンのゲルが胃や腸の中で糖をつつみ込み、糖の吸収をゆっくりにします。その結果、食後血糖の急上昇(いわゆる血糖値スパイク)がゆるやかになると考えられています。欧州食品安全機関(EFSA)は、β-グルカンを「利用可能な炭水化物30gあたり4g」摂ると食後血糖の上昇が抑えられるという健康強調表示を認めています。
ただし、効果は“量”と“粘り”の両方に左右されます。近年の検討では、この4gに満たない少量では食後血糖を安定して下げられないこと、そしてβ-グルカンが加工でとろみ(粘性)を失うと効果が弱まることが指摘されています。「少しだけ」「粘りの壊れた形」では、期待どおりに働かない可能性があるということです。
さらに、朝に大麦をとると昼食後の血糖まで穏やかになる「セカンドミール効果」も知られています。1食だけでなく、その後の食事にも影響が及ぶ可能性がある、というわけです。
著者の視点:血糖値スパイク対策は、食べ方(順番・タイミング)と食材の両輪です。もち麦は「主食そのものを変える」アプローチなので、続けやすさの面で強い。食後の散歩や、食前の味噌汁と組み合わせると、さらに理にかなっています。
実践ポイント:食後血糖が気になる方は、もち麦ごはんに〔食後散歩〕や〔食前の味噌汁〕を足すと相性がいいです。
② LDLコレステロールを下げる
もち麦のβ-グルカンは、コレステロールにも働きます。大麦β-グルカンの効果をまとめたメタ解析(11のランダム化比較試験)では、総コレステロールが約0.30mmol/L、LDLコレステロールが約0.27mmol/L(およそ10mg/dL)低下したと報告されています(AbuMweis SS, et al. Eur J Clin Nutr. 2010)。別のメタ解析でも、大麦β-グルカンがLDL-C・non-HDL-C・アポBを下げる方向に働くと報告されています(Ho HVT, et al. Eur J Clin Nutr. 2016)。
しくみはこう考えられています。腸の中でゲル状になったβ-グルカンが、コレステロールの材料になる胆汁酸を巻き込んで便として排出する。すると肝臓が、失った胆汁酸を作り直すために血液中のコレステロールを使う。結果として、血中のLDLが下がる、という流れです。こうした働きから、欧米では1日3gのβ-グルカンがコレステロール低下に役立つという内容が、健康強調表示として認められています。
著者の視点:LDLを薬以外で下げたい、という相談は本当に多いです。もち麦は、食事を大きく変えずにLDLへ働きかけられる点が実用的だと思います。もちろん薬のような即効性ではなく、あくまで土台づくりの一手です。
実践ポイント:コレステロール対策としての目安は1日β-グルカン3g。もち麦なら乾燥50g前後が目安です(後述)。数値が気になる方は、3か月ほど続けて健診やクリニックで確認してみてください。
③ 日本人でも:内臓脂肪との関連
海外の研究だけではありません。コレステロールが高めの日本人男性44名を対象にした二重盲検試験では、高β-グルカン大麦(1日7g)を12週間とったグループで、LDL・総コレステロールの低下に加え、内臓脂肪面積・BMI・腹囲の有意な減少が報告されています(Shimizu C, et al. Plant Foods Hum Nutr. 2008)。内臓脂肪は、高血圧・高血糖・脂質異常と結びつき、動脈硬化を進める要因のひとつです。
もち麦(大麦)は、血糖・コレステロール・内臓脂肪という、動脈硬化に関わる複数の要因にまとめて働きかけうる、というのがデータの示すところです。
著者の視点:動脈硬化予防で私が重視するのは、「一点狙い」より「土台をまとめて整える」ことです。もち麦がおもしろいのは、まさにこの“複数同時”に効きうる点。散歩が体全体の危険因子に働くのと、よく似た構図だと感じます。
実践ポイント:内臓脂肪が気になる方は、白米をもち麦に置き換えつつ、〔散歩など日々の運動〕を組み合わせるのが王道です。
なぜ「血糖値」と「動脈硬化」の両方に効くのか
ここまでを整理すると、もち麦のβ-グルカンは、食後血糖・LDLコレステロール・内臓脂肪という、別々に見える問題に横断的に働いています。実はこれらは無関係ではありません。動脈硬化を進める主な危険因子が、まさに高血糖・脂質異常・肥満だからです。
食後の高血糖が血管の内側を傷つけ、そこにLDLが入り込んで動脈硬化が進む——この一連の流れの“入口”に、もち麦は複数の角度から働きかけます。血糖値スパイクと動脈硬化のつながりは〔血糖値スパイクが動脈硬化を進める理由〕で詳しく解説しています。
著者の視点:私が動脈硬化予防で心がけてきたのは、危険因子を一つずつ潰すより、生活の中で同時に少しずつ整えることです。もち麦のように一つの食材が複数の因子に届くなら、それは効率のよい一手になります。過信は禁物ですが、土台を支える役としては頼もしい存在です。
実践ポイント:もち麦は「血糖の薬」でも「コレステロールの薬」でもありません。あくまで危険因子をまとめて少し整える食材、という位置づけで、食事全体のバランスの中で使ってください。
どれくらい・どう食べればいい?
もち麦のβ-グルカンは、製品差はありますが乾燥100gあたり6g前後とされています。コレステロール対策の目安である1日3gをねらうなら、乾燥もち麦でおよそ50gが目安です(白米に混ぜて、ごはん茶碗1〜2杯ぶんの置き換えに相当します)。
いきなり多く食べると、食物繊維の増加でお腹が張ったり、ガスが増えたりすることがあります。まずは白米3に対してもち麦1くらいの「3割もち麦」から始め、体を慣らしながら量を調整するのがおすすめです。
もう一つ大切なのが、β-グルカンの“粘り”をなるべく保つことです。前述のとおり、加工でとろみが失われると効果は弱まりやすいとされています。細かく砕いた粉末やスナックより、粒のまま炊いて食べる形のほうが、水溶性食物繊維の働きを活かしやすいと考えられます。
著者の視点:健康食材は「効くかどうか」以上に「続くかどうか」で成否が決まります。もち麦は主食の置き換えなので習慣化しやすいのが最大の利点。無理なく毎日の一杯に組み込めるかが、いちばんのポイントです。
実践ポイント:まとめ炊きして小分け冷凍しておくと、忙しい日でも続けやすくなります。水分を多めにして炊くと、もち麦特有のプチプチ感が出て食べやすいです。
まとめ
もち麦の主役は、水溶性食物繊維のβ-グルカンです。食後血糖の急上昇をゆるやかにし、LDLコレステロールを下げ、日本人研究では内臓脂肪の減少とも関連が報告されています。これらはいずれも動脈硬化の危険因子であり、もち麦は“土台”をまとめて整えられる、めずらしい主食です。特別な調理はいりません。今日の白米を、もち麦入りにするところから始めてみてください。
医療に関する免責事項
本記事は、査読済みの学術論文や公的機関の評価をもとにした一般的な健康情報の提供を目的としており、特定の診断・治療・予防を推奨したり、医師その他の医療専門職による助言に代わるものではありません。紹介した研究は対象や条件(人数・摂取量・期間など)が限られ、すべての方に同じ効果が当てはまるわけではありません。糖尿病や脂質異常症で治療中の方、血糖降下薬を服用中の方は、食事内容を大きく変える前に主治医・管理栄養士にご相談ください。食物繊維の急な増加で腹部症状が出た場合は量を減らし、体調に不安があるときは医療機関にご相談ください。
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主な参考資料
- AbuMweis SS, Jew S, Ames NP. β-glucan from barley and its lipid-lowering capacity: a meta-analysis of randomized, controlled trials. Eur J Clin Nutr. 2010;64(12):1472-1480. DOI: 10.1038/ejcn.2010.178. PMID: 20924392
- Ho HVT, Sievenpiper JL, Zurbau A, et al. A systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials of the effect of barley β-glucan on LDL-C, non-HDL-C and apoB for cardiovascular disease risk reduction. Eur J Clin Nutr. 2016;70(11):1239-1245. DOI: 10.1038/ejcn.2016.89. PMID: 27805621
- Shimizu C, Kihara M, Aoe S, et al. Effect of high β-glucan barley on serum cholesterol concentrations and visceral fat area in Japanese men—a randomized, double-blinded, placebo-controlled trial. Plant Foods Hum Nutr. 2008;63(1):21-25. DOI: 10.1007/s11130-007-0064-6. PMID: 18074229
- EFSA Panel on Dietetic Products, Nutrition and Allergies. Scientific Opinion on the substantiation of health claims related to beta-glucans from oats and barley and maintenance of normal blood LDL-cholesterol concentrations and reduction of post-prandial glycaemic responses. EFSA Journal. 2011;9(6):2207.


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