夏に筋肉量が減った?体組成計の数字の見方を保健学博士が解説

血糖値ケア

夏のあいだに、体組成計の「筋肉量」が下がった。あるいは、お盆に帰省して、親が去年より歩けなくなっていた。そのどちらかで、このページにたどり着いた方が多いと思います。

「夏は筋肉が落ちる」という説明は、あちこちで見かけます。では、それを実際に測った研究はあるのか。探してみました。

見つかりませんでした。

日本人の歩数を測っている公的な統計にいたっては、1989年からずっと、11月の1日しか測っていません。夏のデータは、存在しないのではなく、そもそも取られていないのです。

数字の話が続くので、先に結論を書いておきます。体組成計の値より、握力と歩く速さのほうが確かです。どちらも、今日測れます。

体組成計の「筋肉量」は、測っている値ではありません

家庭用の体組成計は、BIA(生体電気インピーダンス法)という方式です。体に微弱な電流を流して電気抵抗を測り、その値と体重・身長などを推定式に入れて、体脂肪や筋肉量を計算しています。

筋肉そのものを見ているのではなく、電気の通りにくさから逆算しています。

この方式について、日本の総説はこう書いています。

BIAの測定原理は大胆な仮定に基づいており,身体のhydrationの状態や四肢や体幹の体組成の分布の変化があれば,その推定値には大きな誤差を含むことになる.地域の検診などの集団レベルで肥満やサルコペニアを診断するには非常に有用なツールとなりうるが,医療機関での個々の患者の使用に際しては,その原理を十分に理解して体組成の数値を解釈する必要がある.(文献1)

「hydration」は、体の水分の状態のことです。体の水分が変われば、電気の通り方も変わります。

著者の視点:私がこの一文で大事だと思うのは、「集団レベルでは非常に有用」と「個人での解釈には注意」を、同じ論文が並べているところです。体組成計は役に立たない機械ではありません。大勢を比べるためによくできていて、一人の変化を追うには向いていない。用途が違うだけです。

実践ポイント

表示された「筋肉量」を、1回の数字として深刻に受け取らないでください。BIAは体の水分の状態に影響されます。同じ日でも、時間帯によって変わります。

数字を比べるなら、条件を揃えてください

食事、運動、入浴。この前後では体の水分量と体温が変わるため、表示される数値も変わります。前の数字と比べたいなら、同じ条件で測った数字どうしで比べる必要があります。

測るなら、起床後、トイレのあと、朝食の前。この時間帯がいちばん条件を揃えやすくなります。

では、脱水になると数値はどれくらい動くのか。健康で活動的な若い男性を対象に、数時間かけて軽い脱水を起こし、その前後を測った試験があります(文献2)。

体重は減り、体脂肪の推定値もわずかに下がりました。数値は確かに動いています。著者らはこの変化について、機器の精度への影響はわずかで、臨床的に意味のある差とはいえないと結論しています(文献2)。

著者の視点:「夏に筋肉量が下がるのは、汗をかいて脱水になるから測定がずれるのだ」——この説明をよく見かけます。確かめてみると、それを強く支持するデータは見つかりませんでした。実験的に作った脱水でも、推定値の動きは小さく、著者らは意味のある差ではないと書いています。測り方でぶれるのは本当です。ただ、ぶれ幅を大きく見積もりすぎるのも違いました。

ここで、二つの文献が逆を向いているように見えるかもしれません。文献1は「体の水分の状態が変われば大きな誤差を含む」と書き、文献2は「脱水を起こしても動きは小さかった」と報告しています。矛盾ではありません。文献1が想定しているのは、むくみや腹水のように体液の分布そのものが大きく崩れた状態です。健康な人が汗をかいた程度とは、規模が違います。

実践ポイント

数字を追うなら、週1回・同じ曜日・同じ時間に測ってください。そして1回の値ではなく、1か月の傾きで見てください。上下1回分の動きには、意味がないことのほうが多いです。

なお文献2は、若い男性を対象にした試験です。高齢の方や、持病のある方に同じことが当てはまるかは確認されていません。

「夏に筋肉が減る」を測った研究は、見つかりませんでした

そもそもの前提を確かめました。探した範囲では、夏に筋肉量を実際に測った研究が1本も出てきませんでした。

季節による体の変化を調べた研究自体は、いくつもあります。そのほとんどが寒い地域のものです。アイスランドの高齢者では夏のほうが身体活動が多く座位時間が短い、オランダの長期追跡では体重は活動量が最も低い冬に最大となり真夏に最小になる、といった報告があります。

季節の研究は、「冬に動かなくなる」という前提で組み立てられてきました。

著者の視点:寒い国では冬が問題です。雪が積もれば外に出られません。だから研究も冬を見ています。日本の夏を測った人が、まだいないだけかもしれません。「研究がない」は「起きていない」とは違います。「起きている」とも言えません。

実践ポイント

「夏に筋肉が落ちる」と書かれた記事を見たら、その根拠が何かを一度見てください。多くは「暑い→動かない→筋肉が減る」という理屈だけで、測ったデータは示されていません。

日本の歩数の公式データは、11月しか測っていません

「夏は歩数が減る」という説明もよく見かけます。日本人の歩数を測っている公式な統計は、厚生労働省の国民健康・栄養調査です。

この調査の方法を、1946年から2019年までの74年分にわたって整理した資料論文があります(文献3)。歩数について、こう書かれています。

歩数は,1989年から歩数計(山佐時計計器株式会社製)を用いて計測され,装着部位は腰部,11月中の日曜日および祝日を除く1日と調査方法が一貫していた.(文献3)

11月の、平日1日だけです。1989年からずっと変わっていません。

この調査で分かること分からないこと
年ごとの比較(方法が一貫しているため)夏の歩数。測っていません
都道府県ごとの比較季節による増減

著者の視点:これは調査の弱点というより、設計の結果です。同じ方法で30年以上続けているからこそ、年次の比較ができます。ただ、そこから夏のことは分かりません。「日本人の夏の歩数」という数字を見かけたら、それがどこから来たのかを確かめる価値があります。

実践ポイント

この調査の歩数は1日だけの測定です。個人の1日の歩数は、日によって大きく変わります。ご自分の歩数を見るときも、1日ではなく1週間の平均で見てください。

暑いと歩数は減ります(ただし日本のデータではありません)

日本のデータはありませんが、気温と歩数の関係を調べた研究はあります。中国の5都市(北京・上海・重慶・深圳・香港)で、2017年12月から2018年にかけて集められた、匿名化・集計済みのスマートフォンの歩数データを解析したものです(文献4)。

歩数が最も多くなる気温は、冷涼から温暖な気候の都市で16〜19.3℃でした。それより暑くなると、歩数は減っていきます。

都市の気候高温時の歩数(最適気温との差)
冷涼〜温暖(北京・上海・重慶)1日800〜1,500歩少ない
亜熱帯(深圳・香港)減少は有意ではなかった

そして、この研究にはもう一つ報告があります。女性と高齢者は、歩数が最大になる気温がより低く、暑いときの落ち込みが大きかったとされています(文献4)。

著者の視点:この研究に日本は含まれていません。日本の夏に気候が近いのは上海で、上海では有意に減っています。ただし東京と上海が同じとは言えません。またこれはスマートフォンの集計データであって、加速度計で一人ひとりを追跡した研究ではありません。スマートフォンを持ち歩かない方は、そもそもこのデータに入っていません。

実践ポイント

暑い日に「今日は歩けなかった」と感じるのは、意志の問題ではありません。朝夕の涼しい時間に移すか、屋内(商業施設など)に歩く場所を移すほうが現実的です。

2週間動かないと何が起きるか——結果は割れています

では、実際に歩数を減らすと体はどうなるのか。高齢者を対象に、意図的に歩数を落として観察した試験がいくつかあります。

研究対象介入結果
Breen 2013(文献5)健康な高齢者2週間、歩数を削減脚の除脂肪量が減少
McGlory 2018(文献6)過体重・前糖尿病の高齢者1日1,000歩未満を14日、その後14日通常生活血糖コントロールが悪化し、通常生活に戻しても回復しなかった
ENDURE 2024(文献7)健康な70〜80代1日2,000歩未満を2週間脚の除脂肪量は減らなかった

結果が一致していません。歩数の設定も、対象者の健康状態も違うので、当然といえば当然です。「2週間動かないと筋肉が落ちる」と一律に言える段階ではありません。

著者の視点:私が気になったのは、筋肉より血糖のほうです。文献6は、動かない期間のあと通常の生活に戻しても、血糖コントロールが元に戻らなかったと報告しています。動かない期間そのものより、そのあと戻るかどうかが人によって違う——そこが重要だと考えています。私自身、仕事でデスクワークが続くときは、座りすぎが気になります。季節に関係なく、そういう期間はできます。

実践ポイント

2週間が一つの目安です。旅行、繁忙期、体調不良、猛暑。まとまって動かない期間が2週間続きそうなときは、完全に止めないこと。1日1,000歩未満というのは、家の中だけで過ごす生活に近い水準です。

健診で血糖値やHbA1cを指摘されたことがある方は、とくにこの期間を作らないほうがよいと考えられます。

数字より確かなもの:握力と、歩く速さ

ここまで、分からないことばかり書いてきました。体組成計の数字は推定であること、夏の筋肉を測った研究がないこと、歩数のデータにも限界があること。

ここからは、分かっていることを書きます。

加齢などによって筋肉量が落ち、体の働きも低下した状態を「サルコペニア」といいます。アジアのワーキンググループ(AWGS)が2019年に診断基準を改訂しており、日本サルコペニア・フレイル学会が内容を公表しています(文献8)。

項目基準
握力男性 28 kg 未満/女性 18 kg 未満
歩行速度1.0 m/秒 未満

この改訂で、握力の男性基準は前回から2kg引き上げられて28kg未満となり、歩行速度の基準も1.0m/秒未満に変わりました(文献8)。女性の18kg未満は、前回から変わっていません(文献8)。

そしてもう一つ、実務的に大きな変更があります。DXAやBIAといった測定機器がない施設でも、対象を絞ったうえで握力と5回椅子立ち上がりを行えば、「サルコペニアの可能性あり」と判定できるようになりました(文献8)。

家庭で目安にできることを挙げます。

確かめること気にかけたい変化
横断歩道を、青信号のあいだに渡りきれるか渡りきれない日が増えてきた
ペットボトルのふたが開けられるか開けにくくなってきた
椅子から手をつかずに立てるか手をつくようになってきた

著者の視点:体組成計の数字より、こちらのほうがよほど確かです。握力も歩く速さも、推定ではなく実測だからです。帰省して親御さんの様子が気になったなら、体組成計を用意するより先に、一緒に横断歩道を渡ってみてください。ただし、これは診断基準であって、自己診断の道具ではありません。当てはまったら受診を考える、という使い方をしてください。

実践ポイント

青信号で渡りきれない日が増えた。ふたが開けられなくなった。椅子から立つのに手をつくようになった。このどれかがあれば、かかりつけ医にご相談ください。

「歳のせい」で片づけないでください。握力は、自治体の健康イベントや医療機関で測れます。

この記事で確かなことは、ひとつです。握力と歩く速さは、誰でも今日測れて、しかも推定を含みません。

たんぱく質の話——ただし、増やしてはいけない人がいます

筋肉の話になると、たんぱく質が出てきます。高齢者のたんぱく質摂取について、専門家グループ(PROT-AGE)が2013年に合意文書を出しています(文献9)。

これは専門家の合意による推奨であって、試験で確かめられた必要量ではありません。

対象PROT-AGEが推奨している量(1日・体重1kgあたり)
健康な高齢者(65歳超)1.0〜1.2 g
運動している・活動的な高齢者1.2 g 以上
急性・慢性疾患のある高齢者1.2〜1.5 g
(参考)成人全体の従来の基準0.8 g

ここで、二つ書いておくことがあります。

一つめ。この文書には、はっきりと例外が書かれています。推算糸球体濾過量(eGFR)が30 mL/min/1.73m²未満で、透析を受けていない高齢者は例外とされています(文献9)。糖尿病性腎症のある方も、たんぱく質を制限する側になりうると本文に記載があります。

二つめ。この合意文書の資金源です。欧州老年医学会(EUGMS)がネスレ・ニュートリションから助成を受けてこの研究グループを運営した、と論文に明記されています。著者個人の利益相反にも、ネスレ、ニュートリシア、アボットなど栄養食品企業の名前が並んでいます(文献9)。

著者の視点:「高齢者はたんぱく質を多めに」という推奨は、栄養食品メーカーの資金で開かれた会議から出ています。推奨が間違いだという意味ではありません。合意文書としての手続きは踏まれています。ただ、これを書かずに引用するのは違うと思っています。そして、この推奨には例外が明記されています。そちらのほうが、実際には大事です。

実践ポイント

体重50kgの方なら、1日50〜60gが目安になります。

食事で届く量です。卵1個(可食部およそ50g)で約6g、さけ1切れ(およそ80g)で約18g、木綿豆腐半丁(およそ150g)で約10g(文献10)。サプリメントやプロテイン飲料で足すことを前提にした数字ではありません。

ただし、腎機能を指摘されたことがある方は、たんぱく質を増やす前に必ず主治医にご確認ください。健診でクレアチニンやeGFRの項目に印がついたことがあれば、自己判断で増やさないでください。

まとめ

  • 体組成計の「筋肉量」は推定値です。BIAは集団を比べるのに向いていて、一人の変化を追うには向いていません
  • 比べるなら同じ曜日・同じ時間・起床後。1回ではなく1か月の傾きで見てください
  • 夏に筋肉量を測った研究は、探した範囲で1本もありませんでした
  • 日本の公式な歩数統計は11月の1日だけ。季節の比較はできません
  • 暑いと歩数は減ります。日本のデータではありません
  • 2週間動かないと変化が起きるという報告があります。結果は割れたままです
  • 握力と歩く速さは、推定ではなく実測です。こちらのほうが確かです
  • たんぱく質の目安は1.0〜1.2 g/kg。腎機能を指摘された方は例外です

体組成計の数字が下がったこと自体より、「青信号で渡りきれるか」のほうが、はるかに多くを教えてくれます。

医療に関する注意

この記事は、査読を経た研究と公的資料をもとに情報を整理したものであり、診断や治療の指針を示すものではありません。

腎機能を指摘されたことがある方は、たんぱく質を増やす前に必ず主治医にご相談ください。腎機能が低下している場合、たんぱく質を増やすことが適切でないことがあります。

記事で紹介した握力・歩行速度の基準は、診断のための基準であって、自己診断の道具ではありません。当てはまったからといって、ご自身で判断せず医療機関にご相談ください。

意図せず体重が減っている場合は、原因が別にあることがあります。食欲の低下、発熱、痛み、便通の変化などを伴う場合は、早めに受診してください。

糖尿病の治療を受けている方が運動量を大きく変える場合は、低血糖などのリスクがあるため、事前に主治医にご相談ください。

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【使用文献】

文献1 山内健(2019)「BIAの原理と体組成評価」外科と代謝・栄養 53巻4号 pp.123-130 doi.org/10.11638/jssmn.53.4_123

文献2 The Effect of Passive Dehydration on Phase Angle and Body Composition: A Bioelectrical Impedance Analysis. Nutrients. 2024;16(14):2202. doi.org/10.3390/nu16142202

文献3 中潟崇, 笹井浩行, 岡田知佳, 瀧本秀美, 宮地元彦, 小野玲(2024)「国民健康・栄養調査(旧国民栄養調査)の運動習慣,歩数および体格・体力に関する調査項目,方法および変遷」運動疫学研究 26巻1号 pp.35-51 doi.org/10.24804/ree.2310

文献4 The effect of temperature on physical activity: an aggregated timeseries analysis of smartphone users in five major Chinese cities. International Journal of Behavioral Nutrition and Physical Activity. 2022;19:73. doi.org/10.1186/s12966-022-01285-1

文献5 Breen L, et al. Two Weeks of Reduced Activity Decreases Leg Lean Mass and Induces “Anabolic Resistance” of Myofibrillar Protein Synthesis in Healthy Elderly. J Clin Endocrinol Metab. 2013;98(6):2604-2612. academic.oup.com/jcem/article/98/6/2604/2537326

文献6 McGlory C, von Allmen MT, Stokes T, et al. Failed Recovery of Glycemic Control and Myofibrillar Protein Synthesis With 2 wk of Physical Inactivity in Overweight, Prediabetic Older Adults. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2018;73(8):1070-1077. academic.oup.com/biomedgerontology/article/73/8/1070/4583629

文献7 Two-week step-reduction has limited negative effects on physical function and metabolic health in older adults(ENDURE study). 2024. PMC11199225

文献8 日本サルコペニア・フレイル学会「サルコペニア診断基準の改訂(AWGS2019 発表)」2019年11月11日 jssf.umin.jp/pdf/revision_20191111.pdf

文献9 Bauer J, Biolo G, Cederholm T, et al. Evidence-based recommendations for optimal dietary protein intake in older people: a position paper from the PROT-AGE Study Group. J Am Med Dir Assoc. 2013;14(8):542-559. PMID: 23867520 pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23867520

文献10 文部科学省「食品成分データベース」日本食品標準成分表(八訂)増補2023年(2026年8月12日閲覧) 鶏卵/全卵/生(12004) しろさけ/生(10134) 木綿豆腐(04032)

瀬戸 茉莉花

看護師として大学病院・公立病院で臨床を経験後、現在も大学教員として17年間、看護学生の教育と生活習慣病予防の研究に携わっています。看護師・保健師。保健学博士。2児の母として、子育てをしながら情報発信中。
人の幸せの根底には、健康があると思っています。健康だからこそ、大切な人と楽しい時間を少しでも多く過ごせる。そのために健康オタク仲間を増やして、みんなで人生の最後まで元気でいたい。そんな思いでこのブログを書いています

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※本記事は健康情報の提供を目的としており、診断・治療・医療行為を推奨するものではありません。症状や体調についての具体的なご相談は、医師または薬剤師にご確認ください。

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