夏の脱水は心筋梗塞・脳梗塞のリスク?水分と血液の関係を保健学博士が解説

動脈硬化ケア

夏になると「水分をこまめに」と言われます。熱中症対策として、です。ただ、夏の脱水が関わるのは熱中症だけではありません。脱水は血液そのものを変えてしまい、心筋梗塞や脳梗塞といった血管の詰まる病気とも無関係ではないのです。

先に結論をお伝えします。脱水が進むと血液が濃くなり、固まりやすくなります。夏の高温や水分不足は、心筋梗塞や脳梗塞のリスクの高さと関連すると報告されています。 ただ、過度に怖がる必要はありません。大切なのは、正しく水分をとること。この記事では、そのしくみと具体的な飲み方を、8本の査読論文をもとに整理します。

「梗塞」は、血管が詰まって血流が途絶える病気の総称です。心臓の血管が詰まれば心筋梗塞、脳の血管が詰まれば脳梗塞。場所は違っても、根っこにある「血液が濃くなって固まりやすくなる」というしくみは共通しています。夏の脱水は、その共通の入り口に関わってきます。


夏の脱水で、血液に何が起きるのか

汗をかいて体の水分が減ると、血液中の水分も減ります。すると、血液の中の赤血球やタンパク質の“濃度”が上がります。これが、いわゆる「血液がドロドロになる」状態の正体です。

医学的にはもう少し具体的です。脱水が進むと、赤血球の割合(ヘマトクリット)、血液の粘り気(血液粘度)、そして血液を固める材料のひとつであるフィブリノーゲンが上昇します。これらはいずれも、血管が詰まる病気と関連する因子として知られています。血液が濃く、粘り、固まりやすくなる——三拍子がそろえば、血栓ができやすい方向に傾きます。

そしてこの変化は、心臓の血管だけの話ではありません。同じ濃くなった血液は、脳の細い動脈にも流れています。だからこそ、脱水は心筋梗塞にも脳梗塞にも関わってくるのです。汗の量が多い夏は、この変化が起きやすい季節です。

著者の視点: 「血液ドロドロ」という言葉はよく使われますが、脅し文句として消費されがちだと感じています。大事なのは、それが一時的で可逆的だということ。水分をとれば戻ります。だからこそ、怖がるより「濃くしすぎない」ことに意識を向けるほうが建設的です。

実践ポイント

  • 大量の発汗があった日は、意識して水分を増やす(濃くなった血液は水分で戻せる)
  • 「のどが渇いた」と感じた時点で、体はすでに軽い脱水。渇く前に飲むのが基本
  • 血液を固まりにくくする薬を飲んでいる方は、夏の体調変化を主治医に相談しておくと安心

水分をよく飲む人ほど、致死的な心臓病が少なかった

水分と心臓病の関係を示した代表的な研究があります。米国で約2万人(男性8,280人・女性12,017人)を追跡した大規模な観察研究です(文献1)。

6年間の追跡で、1日にコップ5杯以上の水を飲む人は、2杯以下の人と比べて、致死的な冠動脈疾患が少ない傾向にありました。その差は小さくありません。男性で相対リスク0.46(95%CI 0.28–0.75)、女性で0.59(95%CI 0.36–0.97)でした。研究者らは、その背景に「水分不足による血液の濃縮・粘度の上昇」があると考察しています。

ただし、これは観察研究です。「水をたくさん飲めば必ず心臓病を防げる」と証明したものではありません。もともと健康意識の高い人ほどよく水を飲む、といった別の要因が混じっている可能性もあります。それでも、脱水が血液を濃くするという生理学的なしくみと合わせて読むと、示唆に富む結果です。

著者の視点: この研究で私が大切だと思うのは、「特別なものを飲め」ではなく「水でいい」という点です。高価な健康飲料の話ではありません。ただの水を、日常的に十分とる。地味ですが、こういう習慣ほど長く続き、結果的に効いてくると考えています。

実践ポイント

  • 特別な飲料は不要。基本は水や麦茶で十分
  • 「1日コップ◯杯」と決めて、時間で区切って飲むと不足しにくい
  • 心臓や腎臓の病気で水分制限を受けている方は、この目安は当てはまりません。必ず主治医の指示を優先してください

心筋梗塞は冬に多い。でも真夏にも増える

心筋梗塞というと、寒い冬の病気という印象が強いかもしれません。それは事実です。約410万件の心筋梗塞を集めた大規模なメタ分析でも、心筋梗塞は夏より冬に多いことがわかっています(文献2)。寒さは、血圧を上げ、血管を収縮させる強い引き金です。

ただ、リスクが上がるのは寒い時期だけではありません。暑さもまた、別の道すじで発症を後押しします。英国で夏場(6〜8月)の心筋梗塞24,861件を分析した研究では、気温が約20℃を超えると、1℃上がるごとに心筋梗塞のリスクが約1.9%増えるという結果でした(文献3)。しかも効くのは、暑さにさらされてから1〜6時間という短い時間帯です。

ここは冷静に補足しておきます。この研究では、数日単位でみると増えた分の多くが相殺されていました。つまり暑さは、心筋梗塞を新たに大量に生み出すというより、もともと起こりかけていた発症の“タイミングを数時間早める”方向に働くと解釈されています。数字だけを見て怖がりすぎる必要はありません。とはいえ、脱水で血液が濃くなれば、その引き金は引かれやすくなります。「油断はしない」くらいの距離感が妥当です。

著者の視点: 臨床にいた頃、心筋梗塞の救急搬送は「冬に多い」という印象を持っていました。統計的にもそのとおりです。ただ、真夏にもはっきり増えるというのが、現場での実感でした。冷房の効いた室内と炎天下の出入り、大量の発汗、水分不足——夏には夏の引き金がそろいます。「寒い時期さえ気をつければいい」という思い込みは、いったん外したほうがいいと考えています。

実践ポイント

  • 冬の寒暖差だけでなく、真夏の暑さ・脱水も心筋梗塞の引き金になりうると知っておく
  • 気温が高い日(目安として真夏日)は、日中の激しい作業・運動を避ける
  • 暑い時間帯の外出後に胸の痛み・強い息切れが出たら、我慢せず受診を

真夏には、脳梗塞も増える

夏に警戒したいのは、心臓だけではありません。脳梗塞も、暑さと脱水に関わってきます。

イスラエルで、夏に脳卒中・一過性脳虚血発作(TIA)を起こした15,123人(50歳以上)を分析した研究があります(文献4)。それによると、気温が高い日は、その前日から数日にわたって脳卒中・TIAのリスクが上がる傾向がみられました(6日間の累積でオッズ比1.10、95%CI 1.09–1.12)。興味深いことに、夜間に気温が下がって暑さがやわらぐと、このリスクは弱まっていました。

脱水そのものと脳卒中のつながりも指摘されています。米国の大規模な診療データ(80歳以上)を用いた研究では、脱水のある人ほど脳卒中(脳梗塞を含む)が多いという関係がみられました(文献5)。さらに、脳梗塞を起こしたあとの経過にも脱水は影響します。血栓を溶かす治療を受けた脳梗塞患者を調べた研究では、入院時に脱水状態だった人は、長期的な回復が悪い傾向にありました(文献6)。しくみは、これまで述べてきたものと同じです。発汗で水分を失う→血液が濃くなり粘度が上がる→脳の細い動脈で血流が滞り、詰まりやすくなる、という流れです。

著者の視点: ここは、看護の現場でとくに実感してきたところです。真夏には、心筋梗塞だけでなく脳梗塞の搬送も目立ちました。とりわけ、ひとり暮らしの高齢の方が、エアコンをつけず、水分も控えめのまま数日を過ごしたあと——という経過は、何度も見てきました。暑さと脱水は、心臓と脳の両方に同時に効いてくる。この“同時に”という点が、夏の怖さだと思っています。

実践ポイント

  • 真夏は「脳梗塞も増える季節」と意識する。とくに高齢の家族には、こまめな声かけを
  • ろれつが回らない・片側の手足が動かない・顔がゆがむといったサインは、迷わず救急要請(FAST)
  • 就寝中は水分を失いやすい。夜間から早朝の発症に備え、就寝前と起床時の1杯を習慣に

慢性的な“かくれ水分不足”も、心臓に響く

急な脱水だけでなく、ふだんから水分が足りない状態も心臓に関わる——そう示した研究があります。中年期(45〜66歳)の約1万2千人を25年追った大規模研究です(文献7)。

指標に使われたのは、血液中のナトリウム濃度です。水分が慢性的に足りないと、血液中のナトリウムはやや高めに保たれます。この研究では、中年期の血清ナトリウムが143 mmol/Lを超える人は、将来の心不全リスクが約39%高いという結果でした。これは、体重のわずか1%程度の水分不足に相当する水準です。

つまり、日々の“ちょっとした水分不足”の積み重ねが、長い目で見て心臓に負担をかけている可能性がある、ということです。夏に限った話ではありませんが、汗で水分を失いやすい夏は、その傾向が出やすい季節といえます。

著者の視点: この研究は、「水分補給は夏の応急処置」という見方を変えてくれます。脱水を“その日の問題”としてだけでなく、“何年もかけて効いてくる生活習慣”として捉える。動脈硬化予防を考えるうえでも、こうした地味で長期的な視点は欠かせないと感じています。

実践ポイント

  • 水分補給は「夏だけ」「のどが渇いたときだけ」ではなく、一年を通した習慣に
  • 起床時・入浴の前後・就寝前など、水分が抜けやすいタイミングで1杯を挟む
  • この研究は関連を示したもので、飲水量を増やせば心不全を防げると証明したわけではない点には注意

とくに注意したいのは、こんな人・こんな場面

同じ夏でも、脱水と血栓のリスクが高まりやすい人・場面があります。

注意したい人

  • 高齢の方(のどの渇きを感じにくく、体内の水分量も少ない)
  • 利尿薬や、血圧・心臓の薬を飲んでいる方
  • 糖尿病のある方(高血糖で尿が増え、脱水に傾きやすい)
  • 血栓・脳梗塞・心筋梗塞の既往がある方、動脈硬化が指摘されている方

注意したい場面

著者の視点: リスクは「重なったとき」に跳ね上がります。たとえば、高齢で利尿薬を飲んでいる方が、飲酒して就寝し、夜間に汗をかく。ひとつずつは小さくても、積み重なると脱水は一気に進みます。自分や家族がいくつ当てはまるかを知っておくだけでも、備えが変わります。

実践ポイント

  • 上に2つ以上当てはまる方は、就寝前と起床時の1杯を習慣に
  • お酒を飲む日は、水と食事を別にとる(“水分はアルコールだけ”にしない)
  • 利尿薬などを服用中の方は、夏の水分のとり方を主治医に一度確認しておく

夏の水分、どうとるのが良いか

最後に、具体的な飲み方を整理します。難しくはありません。

量の目安 食事以外に、1日1〜1.5リットルほどを目安に。ただし年齢・体格・持病・活動量で適量は変わります。心臓や腎臓の病気で制限がある方は、主治医の指示が最優先です。

タイミング 一度にがぶ飲みするより、コップ1杯を数回に分けるほうが吸収されやすく、体にもやさしいとされています。とくに、起床時・運動や入浴の前後・就寝前は挟みたい場面です。

中身 基本は水か麦茶。大量に汗をかいたときは、塩分も一緒に失われているため、経口補水液なども選択肢になります。一方、注意したいのがアルコールです。ビールにも水分は含まれますが、アルコールの利尿作用で一部は尿として余分に失われます。とはいえ、その差はよく誤解されています。ある研究では、1リットルのビール(4%)による尿量の増加は無アルコールのものと比べて約12%程度で、しかも体が脱水気味のときは利尿作用がむしろ弱まると報告されています(文献8)。つまり「ビールを飲むと飲んだ以上に水分が出ていく」というほど激しいものではありません。本当の問題は、水や食事をとらず“その日の水分をアルコールだけで済ませてしまう”ことにあります。

著者の視点: 救急の現場で強く印象に残っているのが、夏に搬送される方——とくに男性——に、「その日とった水分がアルコールだけ」という人が少なくなかったことです。ビール自体が激しく脱水を招くわけではありません。ただ、水や食事からの水分・塩分をとらないままアルコール中心で過ごし、そこに発汗が重なると、追いつかなくなります。酔いで、のどの渇きや体調の変化に気づきにくくなるのも怖いところです。汗をかいた日の一杯は、水と食事とセットで——これは何度でも伝えたい点です。飲み方そのものは、熱中症対策として広く勧められている内容と重なります(量やタイミングの細部は研究で一律に定まっているわけではなく、著者の視点として一般的な目安を示しています)。難しく考えず、「渇く前に、少しずつ、一年を通して」。まずはこれで十分です。

実践ポイント

  • 目安は食事以外に1日1〜1.5リットル、数回に分けて(持病による制限がある場合は主治医の指示を優先)
  • 起床時・入浴前後・就寝前・運動時の1杯を固定化する
  • 大量発汗時は塩分も補給。アルコール・カフェイン飲料は水分補給に数えない
  • 「水分はビールだけ」は禁物。お酒を飲む日も、水と食事は別にとる(“水分はアルコールだけ”になりがちな人は注意)

まとめ

夏の脱水は、熱中症だけの問題ではありません。血液を濃く・粘り・固まりやすくすることで、心筋梗塞や脳梗塞のリスクとも結びつきます。心筋梗塞は冬に多いものの真夏にも増え、暑さは脳卒中の引き金にもなり、慢性的な水分不足は将来の心不全とも関わっていました。心臓と脳に同時に効いてくる——ここが、夏の脱水の見落とされがちな怖さです。

いずれも「必ずそうなる」という話ではなく、「そういう方向に関連する」という段階です。それでも、対策はシンプルで、副作用もありません。渇く前に、少しずつ、一年を通して水分をとる。とくに高齢の方、利尿薬を飲んでいる方、夜間や飲酒後は意識してみてください。

今日の暑さのなかで、まずコップ1杯から始めてみてください。

医療に関する免責事項

本記事は、査読済みの学術論文をもとにした一般的な健康情報の提供を目的としており、特定の診断・治療・予防を推奨したり、医師その他の医療専門職による助言に代わるものではありません。紹介した研究はいずれも観察研究などであり、水分摂取や気温と心臓病・脳卒中の「関連」を示したもので、因果関係を証明したものではありません。心不全・腎臓病などで水分制限を受けている方、利尿薬や抗凝固薬を服用中の方は、水分のとり方を自己判断で変えず、必ず主治医にご相談ください。胸の痛み・強い息切れ、また、ろれつが回らない・片側の手足の脱力・顔のゆがみなど脳卒中を疑う症状がある場合は、様子を見ずにただちに救急要請をしてください。本記事の情報の利用によって生じたいかなる結果についても、著者およびサイト運営者は責任を負いかねます。

瀬戸 茉莉花

看護師として大学病院・公立病院で臨床を経験後、現在も大学教員として17年間、看護学生の教育と生活習慣病予防の研究に携わっています。看護師・保健師。保健学博士。2児の母として、子育てをしながら情報発信中。
人の幸せの根底には、健康があると思っています。健康だからこそ、大切な人と楽しい時間を少しでも多く過ごせる。そのために健康オタク仲間を増やして、みんなで人生の最後まで元気でいたい。そんな思いでこのブログを書いています

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