「お風呂は寝る90分前がいい」。検索すると、たくさんのサイトがそう書いています。
もとになった研究を発表した大学の、見出しはこうでした。
Take a Warm Bath 1-2 hours Before Bedtime to Get Better Sleep
「90分」ではなく「1〜2時間」です。
お風呂から出たあと、いつ布団に入ればいいのか。90分も空けられなくて、これでいいのかと思っている。そういう方に向けた記事です。
この記事の結論を先に3つ書きます。
- 「90分」は、論文の結論ではありません
- もとの数字は「1〜2時間前」。当時その根拠は、2つの研究・計36人でした
- その後、日本の高齢者1,094人を調べた研究が出ています。1〜3時間前の幅で、寝つきが短い方向でした
この記事は、査読を受けた論文と、大学の公式発表をもとに整理しました。数字は、すべて原文から。取れなかったものは、そう書きます。
「90分前」は、論文の結論ではありませんでした
もとの論文は「1〜2時間前」と書いています
2019年に、睡眠の専門誌に出たシステマティックレビュー・メタ解析です(文献1)。5,322本の候補論文から17本を選び、そのうち13本を統合しています。
抄録の結論は、こう書かれています。
PBHWB of 40-42.5 °C was associated with both improved self-rated sleep quality and SE, and when scheduled 1-2 h before bedtime for little as 10 min significant shortening of SOL.
「1〜2時間前」です。そして、ここに出てくる「10分」は、お風呂に入っている時間のことです。短くなった時間ではありません。
「90分」が出てくるのは、大学の発表の1か所だけです
この研究を行ったのは、海外の大学の研究グループです。その大学が2019年7月19日に出した発表を読みました(文献2)。
見出しは「1-2 hours」。本文のなかに、1か所だけありました。
The researchers found the optimal timing of bathing for cooling down of core body temperature in order to improve sleep quality is about 90 minutes before going to bed.
配信サイトでは、この「90分」のほうが見出しになりました。
| どこ | 何と書いてあるか |
|---|---|
| 論文の抄録・結論 | 1〜2時間前 |
| 大学の発表(見出し) | 1-2 hours |
| 大学の発表(本文1か所) | 約90分前 |
| 研究の配信サイト(見出し) | 90 minutes |
| 日本語のサイト | 90分前 |
「90分」は間違いではありません。1〜2時間のちょうど真ん中です。ただ、論文が幅で言っているものを、1点に絞った数字です。
- 「90分前」を目標にしなくて大丈夫です。もとの数字は、1〜2時間という幅です
- 数字が1点に絞られていたら、元の文献を探してみてください。幅だったものが、記事になる過程で1点になることがあります
根拠は2つの研究・36人。そのあと1,094人の研究が出ました
原著自身が「2つの研究・計36人」と書いています
同じ論文の結論部分です(文献1)。
Our conclusion regarding the proper scheduling of PBHWB before bedtime, however, is based on the findings of only two studies entailing in total 36 subjects, thereby highlighting the need for more
「このタイミングについての結論は、2つの研究・計36人にもとづくものであり、さらなる研究が必要である」。
13本を統合したメタ解析ですが、タイミングについては、この2つの研究だけが土台になっています。
日本の高齢者1,094人で、時間帯を区切って調べた研究があります
2021年に、日本の研究グループが報告したものです(文献3)。平均72.0歳、1,094人。入浴と睡眠を繰り返し測って解析しています。
この研究の特徴は、入浴から就寝までの間隔を、4つに区切ったことです。そして「入浴しなかったとき」と比べています。
| 入浴から就寝まで | 寝つくまでの時間 | 就寝前30分の放熱の指標 |
|---|---|---|
| 1〜60分 | 有意とは報告されていません | — |
| 61〜120分 | 有意に短い | +0.49度 |
| 121〜180分 | 有意に短い | +0.51度 |
| 181分超 | 有意とは報告されていません | — |
数字で確かめたい方へ。寝つくまでの時間(アクチグラフ)は、61〜120分で0.23 log分 短い(95%信頼区間 0.03〜0.42)、121〜180分で0.32 log分 短い(0.09〜0.56)。自己申告では 0.16 短い(0.02〜0.30)と 0.18 短い(0.01〜0.35)。皮膚温の勾配は +0.49度(0.22〜0.75)と +0.51度(0.20〜0.83)。寝つきの数値は対数に変換されたものなので、「何分短くなった」という形には換算できません。
この研究の著者らは、背景でこう書いています。
However, this evidence is based on small sample-sized studies in specific populations. Thus, we analyzed … in a large study population of older adults.
「これまでの根拠は、小規模で特定の集団を対象にした研究にもとづいている。だから大規模に調べた」。文献1が書いていた「2つの研究・36人」という状況と、重なります。
著者の視点:お風呂のあと、1時間くらいしたら眠気を感じます。
ここで気をつけたいことが2つあります。ひとつは、「眠気を感じる」ことと「寝つくまでの時間」は、別のものだということ。もうひとつは、1時間以内の区分について、この研究は「悪い」とは書いていないということです。抄録で有意と報告されているのは、61分以降の2つの区分だけ、というだけです。
ご自分の就寝時刻から、引き算してみてください。
| 布団に入る時刻 | 湯船から出る目安 |
|---|---|
| 22時 | 19時〜21時 |
| 23時 | 20時〜22時 |
| 24時 | 21時〜23時 |
| 25時(深夜1時) | 22時〜24時 |
幅の中なら、どこでも構いません。文献3で有意だったのは61〜120分と121〜180分の2つで、どちらが優れているかを比べた検定はされていません。
- 1時間すぎから3時間の幅。そのどこかに入っていれば、研究が示している範囲です
- 2〜3時間前でも構いません。文献3では、そちらの区分でも同じように有意でした
- お風呂の時刻を動かすより、寝る時刻を一定にするほうが現実的です
「寝つき」と「眠りの質」は、別に見られています
2,252人を実生活で調べた研究では、抄録に寝つきの結果が出ていません
2025年に、同じ研究グループが報告しています(文献4)。平均68.8歳、2,252人。実験室ではなく、ふだんの生活のなかで測っています。
湯船に入った人と、入らなかった人の差です。
| 何を見たか | 差 | 判定 |
|---|---|---|
| 睡眠効率 | +1.3% | 差がある |
| 夜中に目が覚めた時間 | −3.3分 | 差がある |
| 手首とおなかの温度差 | +0.26度 | 差がある |
| 主観的に眠りが悪い | 0.73倍 | 差がある(少ない) |
| 寝つくまでの時間 | 抄録には報告されていません | |
数字で確かめたい方へ。睡眠効率+1.3%(95%信頼区間0.3〜2.4、P=0.013)/中途覚醒−3.3分(1.0〜5.7、P=0.005)/皮膚温の差+0.26度(0.11〜0.41、P=0.001)/主観的に眠りが悪いオッズ比0.73(0.58〜0.91、P=0.006)。なお、このあとに出てくる「長時間×高湯温」の交互作用については、抄録に数値と検定結果の記載がありません。
睡眠効率の差が1.3%というのは、8時間床にいるなら約6分です。大きな変化とは言えません。
2つの研究は、見ているものが違います
| 何で分けたか | 何を見たか | |
|---|---|---|
| 文献3(1,094人) | 入浴から就寝までの間隔 | 寝つくまでの時間 |
| 文献4(2,252人) | 入浴したか、しなかったか | 眠り全体(効率・中途覚醒ほか) |
どちらかが正しい、という関係にありません。問いが違うので、出てくる答えも違います。
長く、そして熱く。重なるとマイナスでした
文献4には、入浴した人のなかでの解析もあります。
Among bathers, immersion duration and abdominal skin temperature (surrogate for bathtub temperature) exhibited a negative interaction in relation to actigraphic sleep efficiency.
長く浸かることと、湯温が高いこと。この2つが重なったとき、睡眠効率にとってマイナスの方向でした。(湯温は、おなかの皮膚温で代用して測っています)
長く入るほどいい、熱いほどいい、とはなりませんでした。
- 「寝つきが平均10分早くなる」という数字は、論文ではなく、大学の発表に書かれているものです
- 眠れないからといって、長く熱く入らないでください。2,252人のデータでは、その組み合わせがマイナスの方向でした
- 入浴は、眠りの底上げです。不眠を治すものではありません。寝つけない日が続くときは、医療機関にご相談ください
では、どうすればいいのか
湯温の数字は、目的によって違います
3つの数字が流通しています。どれかが間違っている、ということでもありません。
| 出典 | 湯温 | 何のための数字か |
|---|---|---|
| 睡眠のメタ解析(文献1) | 40〜42.5度 | 研究で使われた範囲 |
| 日本式入浴の定義(文献5) | 40〜41度 | 日本人が実際にしている入浴 |
| 三学会の合意(文献6) | 40度以下 | 入浴中の死亡を防ぐため |
いちばん低いのは、安全のための数字です。高齢の方や、血圧・心臓を指摘されている方は、こちらに合わせてください。
よく引用される研究は、日本式の入浴ではありませんでした
日本式の入浴を、英文でまとめたレビューがあります(文献5)。そのなかの一節です。
In the experiments performed in 1980s; however, the participants immersed themselves in the baths for more than 30 min, and their body core temperature increased about 1.6–2.6 °C, these values are higher than those practicing the JSB (about 0.6–1.0 °C). Therefore, their experiments did not directly show the effect of JSB on sleep.
文献5によれば、1980年代の実験では、30分以上浸かって、体の内部の温度が1.6〜2.6度上がっていました。日本式の入浴で上がるのは、0.6〜1.0度です。この3つの数字は文献5が引用しているもので、1980年代の原著そのものは確認していません。
「だからそれらの実験は、日本式入浴の睡眠への効果を直接示したものではない」と書かれています。
寒い脱衣所のほうが、問題かもしれません
同じレビューは、一般に広まっている予防法に注文をつけています(文献5)。
high water temperature bath and long bath are preferred when the room temperature is low, and a half-body bath is not preferred because it is uncomfortable and unrealistic in the cold environments. That is, many surveys and experiments revealed that items (2), (3), and (4) can be resolved by warming the dressing room/bathroom.
室温が低いと、熱い湯と長湯が好まれる。半身浴は、寒い環境では不快で現実的ではない。だから「湯温を下げる」「長湯をしない」「半身浴にする」の3つは、脱衣所と浴室を暖めれば解決できる、という指摘です。
このレビューの結論は、脱衣所・浴室を20度以上に保つこと。高齢の方については、さらに数度高くすることがすすめられています。
著者の視点:新しい家は、脱衣所と浴室の気温差が気になりません。ただ、実家は気温差が結構ひどいので、冬はコンパクトなヒーターを使って温度を上げるようにしています。
文献5が挙げているのも、この「部屋のほうを暖める」という順番です。脱衣所と浴室が20度以上あれば、湯温と入浴時間を無理に変えなくてよい、という組み立てになっています。
- 脱衣所と浴室を20度以上に。高齢のご家族がいる場合は、さらに数度高く(文献5)
- 湯温は40度以下、10分以内。三学会が合意した、安全のための目安です(文献6)。ただし文献5は、部屋が寒いままでは、この2つは守られにくいと指摘しています
- 飲酒の直後、睡眠導入剤を飲んだ直後は入らない(文献6)
- 半身浴は、寒い時期にはすすめられていません。不快で続かないためです(文献5)
- 湯船に入れない日は、シャワーでも構いません。文献1は、シャワーと足湯も対象に含めています
まとめ
- 「90分前」はどこから来たのか。大学の発表の本文にある1文が、配信サイトの見出しになったものです。論文の結論は「1〜2時間前」
- その「1〜2時間前」は確かだったのか。当時の根拠は2つの研究・計36人。原著が「さらなる研究が必要」と書いています
- そのあと、どうなったのか。日本の高齢者1,094人の研究で、61〜120分と121〜180分の区分で、寝つきが有意に短い方向でした
- 眠りの質は良くなるのか。2,252人の実生活データでは、睡眠効率と中途覚醒が改善。寝つくまでの時間は、抄録には報告されていません
- 結局どうすればいいのか。脱衣所を20度以上に/湯温40度以下・10分以内/飲酒と薬の直後は避ける
この記事からお渡しできるものは、1つです。
「90分前に入らなければいけない」という縛りが、なくなります。1時間でも、2時間でも、3時間前でも、研究が示している幅の中です。一方で、脱衣所の温度には「20度以上」という具体的な数字が出ています。
買い替えるものは、ありません。脱衣所に暖房を置く。湯温を1度下げる。それだけです。
医療に関する注意
この記事は、査読を受けた論文と公的な資料をもとにした一般的な情報です。診断や治療を目的としたものではありません。
- 紹介した研究は、観察研究とメタ解析です。個人に何が起きるかを予測するものではありません
- 文献3・文献4は、いずれも高齢者を対象にした研究です(平均72.0歳と68.8歳)。若い世代に同じことが言えるかは、確かめられていません
- 寝つけない日が続く、日中の眠気で生活に支障が出る。そうしたときは、入浴で対処し続けずに医療機関にご相談ください
- 睡眠薬を飲んでいる方は、飲んだあとの入浴を避けてください。入浴のタイミングについては、主治医にご相談ください
- 高血圧・心臓病・脳血管の病気で治療中の方は、湯温と入浴時間について主治医にご確認ください
- この記事の数字は、いずれも集団を見たものです。ご自身に当てはめる判断は、医療者にご確認ください
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【使用文献】
- Haghayegh S, Khoshnevis S, Smolensky MH, et al. Before-bedtime passive body heating by warm shower or bath to improve sleep: A systematic review and meta-analysis. Sleep Med Rev. 2019;46:124-135. PMID: 31102877
- The University of Texas at Austin. Take a Warm Bath 1-2 hours Before Bedtime to Get Better Sleep, Researchers Find. UT News. 2019年7月19日
- Tai Y, Obayashi K, Yamagami Y, et al. Hot-water bathing before bedtime and shorter sleep onset latency are accompanied by a higher distal-proximal skin temperature gradient in older adults. J Clin Sleep Med. 2021;17(6):1257-1266. PMID: 33645499
- Tai Y, Obayashi K, Yamagami Y, et al. Association between before-bedtime hot-tub bathing and sleep quality in real-life settings among community-dwelling older adults. Sleep Health. 2025;11(6):908-915. PMID: 40803898
- Tochihara Y. A review of Japanese-style bathing: its demerits and merits. J Physiol Anthropol. 2022;41:5. DOI: 10.1186/s40101-022-00278-0
- 堀進悟(研究代表者). 入浴関連事故の実態把握及び予防対策に関する研究. 厚生労働科学研究費補助金 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業. 平成25年度 総括研究報告書・総合研究報告書(課題番号 H24-循環器等(生習)-指定-022)https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/22685(2026年9月7日閲覧)
【引用についての注記】数値と引用は、各文献の原文から引いています。ただし3つ、例外があります。①「寝つきが平均約10分早くなる」は、論文の結果の部分ではなく、文献2(大学の公式発表)に書かれている数字です。②1980年代の実験の3つの数字(30分以上・1.6〜2.6度・0.6〜1.0度)は、文献5が引用しているものです。③文献3・文献4は、抄録から引いています。なお文献3の数値は対数に変換されたもので、「何分短くなった」という形には換算できません。文献4の記録によると、この研究グループは公的研究費のほか、民間の財団・企業からも資金を受けています。
※本記事は健康情報の提供を目的としており、診断・治療・医療行為を推奨するものではありません。症状や体調についての具体的なご相談は、医師または薬剤師にご確認ください。


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