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そうめんをゆでたのに、半分残してしまう。冷蔵庫を開けても、手が伸びるものがない。梅雨に入ると、そういう日が増えていきます。
食欲がわかないのを「もともと胃腸が弱いから」で片づけてしまいがちですが、犯人はたいてい胃ではなく、蒸し暑さのほうです。気温と湿度がそろって上がると自律神経のバランスが崩れ、胃や腸の動きが落ちる。食欲が引っ込み、食後にもたれるのは、その結果です。からだとしては、理にかなった反応なのです。
裏を返せば、しくみさえわかれば打つ手はあります。以下では、梅雨に食欲不振や胃腸不調が起きる流れを、人を対象とした研究や生理学の知見からたどり、今日から試せる食事・生活習慣の工夫までまとめました。
ただ、はじめに線を引いておきます。「梅雨そのもの」と食欲不振の関係を正面から調べた質の高い研究は、ほとんどありません(その意味ではエビデンス不十分です)。ですから本記事は、温熱環境・自律神経・消化という3つのピースを、わかっている範囲でつなぎ合わせて読み解いていきます。
梅雨に食欲が落ち、胃がもたれる原因
ざっくり言えば、「蒸し暑さ」「自律神経の乱れ」「消化機能の低下」が、玉突きのように連鎖して起こります。
高温多湿が自律神経のバランスを乱す
気温・湿度・気流といった温熱環境が、自律神経のバランスの指標(心拍変動のLF/HF比)に影響することは、人を対象とした実験で確かめられています(文献2)。そして温熱的に不快な環境では、快適なときに比べて交感神経の活動が高まることも示されています(文献3)。
梅雨がやっかいなのは、気温が上がるうえに湿度も高いことです。汗が蒸発しにくいので、からだは体温を一定に保とうと、休みなく体温調節を続けます。この負担が、交感神経が優位に傾いた状態をつくると考えられます。文献2でも、暑い環境ではLF/HFが高くなり、湿度についても「高いとき」にLF/HFへ影響することが報告されています。気温だけでなく、汗の蒸発をさまたげる高い湿度も、自律神経への負荷として効いてくるわけです。
自律神経の乱れが胃腸の働きを落とす
胃腸の動きは、自律神経が握っています(文献4)。おおまかには、副交感神経(迷走神経)が働けば消化が進み、交感神経が優位になると胃腸の動きにはブレーキがかかります。
ストレスがかかると、ストレスホルモンであるCRF(副腎皮質刺激ホルモン放出因子)を介して、胃から腸へ食べ物を送り出す動き(胃排出)が遅くなります(文献5)。このレビューでは、腹部の手術や急性の拘束ストレスといった負荷が、CRF受容体を介して胃排出を遅らせることが報告されています(文献5)。胃に食べ物が長くとどまれば、もたれ感や「少し食べただけで満腹」という感覚につながります。
ここで一点、補足します。これらはおもにマウスやラットで確かめられた知見で、しかも調べられた負荷は手術や拘束ストレスであって、暑さや湿度そのものではありません。梅雨の暑さも体への負荷のひとつだと考えるのは自然ですが、それを胃排出の遅れに直接結びつけているのは、あくまで本記事の解釈です。
暑さそのものが食欲を抑える
体温が上がると食欲が落ちる、というしくみも知られています。動物実験では、体温の上昇を感知して食べる量を抑える回路(視床下部のPOMCニューロンにあるTRPV1様受容体)が報告されています(文献1)。もっとも、この研究が主に見ていたのは運動などで体温が上がる場面で、梅雨の蒸し暑さを直接調べたものではありません。暑い時期に食欲が落ちやすいのは経験的によく知られていますが、しくみの裏づけは動物実験が中心で、ヒトでの定量的なデータはまだ限られます。
著者の視点 梅雨の食欲不振を「自分は胃腸が弱いから」と思い込んでいる人も多いのではないでしょうか。けれど多くの場合、原因は胃そのものより、蒸し暑さに対応し続けている自律神経のほうにあります。食べられないことを、自分の弱さのように責める必要はありません。「いまは体が体温調節に手いっぱいなんだ」と受け止めるだけで、気持ちはずいぶん軽くなります。
実践ポイント
- まず室内を整える。日本の夏なら、室温は28℃前後、湿度は50〜60%あたりを目安に、除湿(ドライ運転)で「蒸し暑さ」を抜く(※この数値は引用論文の範囲を超えるため、著者の視点としての一般的な目安です)。
- 「食欲がない=なまけ」ではないと知っておく。これだけでも、立派な対策のひとつです。
梅雨型の食欲不振・胃腸不調の特徴
梅雨の不調には、共通する顔つきがあります。当てはまる数が多いほど、季節が関係している可能性は高いと見ています。
- 朝から食欲がなく、だるさを引きずる
- 食後にもたれる、少しで満腹になる
- 冷たいものばかり欲しくなり、結局さらに胃腸が重くなる
- むくみや体の重だるさも一緒に出る
- 蒸し暑い日や、気温が乱高下する日に悪化する
これらは、ここまで見てきた「交感神経優位による消化機能の低下」と「暑さによる食欲抑制」で、おおむね説明がつきます。加えて梅雨は、気温と湿度がそろって高い、いわゆる梅雨型の熱中症が起きやすい時期でもあります。食欲不振に強い倦怠感・めまい・頭痛が重なるなら、暑さによる体調不良も疑ってください。そして、梅雨のうちに整えそびれると、その不調を夏本番の夏バテにまで持ち越してしまうこともあります。早めに手を打っておくほど、夏は楽になります。
一方で、季節のせいにしてはいけないサインもあります。短期間で体重がガクッと落ちる、嘔吐が続く、吐血や黒い便がある、強い腹痛や発熱をともなう、症状が数週間引かない——こうしたときは、別の病気が隠れていることがあります。梅雨では説明がつきません。早めに受診してください。
著者の視点 「毎年この時期だけ」という規則性があるかどうかは、自分の体を読むうえで大きなヒントになります。不調の日と天気をひとことメモしておくと、季節のものなのか、受診すべきものなのかの見分けがつきやすくなります。
実践ポイント
- 症状を「天気・気温・湿度」とセットで、簡単に記録してみる(※記録の習慣は著者の視点としてのおすすめで、引用論文が推奨しているわけではありません)。
- 上の受診サインに当てはまるなら、様子見を続けないこと。
食事でできる対策
食欲がないときほど、「何を、どう食べるか」が効いてきます。狙いはシンプルで、胃腸に余計な負担をかけないことです。
冷たいものは、その場はさっぱりしますが、続くと胃腸を冷やして動きを鈍らせる一因になりえます。常温の飲み物や温かい汁物も混ぜておくと、負担がやわらぎます。それと、一度にたくさん食べると胃排出が追いつかず、もたれの引き金になります。食欲が落ちている時期は、量を減らして回数で稼ぐほうが、体には優しいのです。
作る気力もわかない日のために、レトルトのおかゆを常備しておくと安心です。レンジで温めるだけで、消化にやさしい一杯がとれます。食欲が落ちる時期のストックとして、粥餐庁のカップ粥セットのような常温保存できるタイプを置いておくと、無理なく一口目を入れられます。
著者の視点 「食べられないなら、せめて消化のいいものを少しでも」。これが私の基本姿勢です。おかゆ、うどん、豆腐、卵、白身魚、くたっと煮た野菜——胃にやさしく、たんぱく質も取りやすい食材です。夏はそうめんなどで糖質に偏りがちなので、たんぱく質を一品そえるだけで、栄養の崩れはだいぶ防げます。
実践ポイント(※量・頻度・タイミングは引用論文の範囲を超えるため、著者の視点としての一般的な目安です)
- 1回の量を控えめにして、回数を分ける(3食がきつければ、少量を4〜5回に)。
- 冷たいもの一辺倒にしない。常温〜温かいものと組み合わせる。
- 食欲がなくても、たんぱく質(卵・豆腐・白身魚・鶏むねなど)を毎食ひと口でも。
- 水分はこまめに。汗をかく時期は、水だけでなく塩分・電解質も意識する。
- もたれが強い日は、寝る直前の食事を避けて、消化の時間をつくる。
生活習慣でできる対策
食事と並んで効くのが、自律神経を整える暮らし方です。根っこにある「交感神経優位・体温調節の負担」をいかに減らすか、がポイントになります。
温熱環境が自律神経に響くことはわかっているので(文献2・文献3)、まずは室内の蒸し暑さを抜くのが理にかなっています。そのうえで、睡眠・入浴・運動・光という、自律神経のリズムにかかわる要素を整えていきます。
著者の視点 自律神経は、「整えるぞ」と力むより、生活のリズムを一定に保つほうが、結果的に落ち着きます。とくに寝る時間がバラバラだと、胃腸まで連動して乱れがちです。完璧を目指さなくて大丈夫。まずは起きる時間だけそろえる。そこからで十分です。
実践ポイント(※具体的な目安は引用論文の範囲を超えるため、著者の視点としての一般的なおすすめです)
- 除湿で室内の「蒸し暑さ」を下げる(湿度50〜60%目安)。
- 起床・就寝の時間を、なるべく一定に。
- 入浴はぬるめ(38〜40℃)で、就寝前に体温のメリハリをつくる。
- 散歩やストレッチなど、軽い運動を無理のない範囲で。
- 朝に自然光を浴びて、一日のリズムを起こす。
まとめ
梅雨の食欲不振や胃腸不調は、蒸し暑さ → 自律神経の乱れ(交感神経優位)→ 消化機能の低下という流れで、おおむね説明がつきます。温熱環境が自律神経に影響すること(文献2・文献3)、その自律神経が胃腸を動かしていること(文献4)、ストレスで胃排出が遅れること(文献5)、体温の上昇が食欲を抑えること(文献1)。これらをつなぐと、梅雨の不調が「体の自然な反応」だと見えてきます。ただ、梅雨そのものを直接調べた研究は乏しいので、最後のつなぎ方は本記事の解釈である——その一点だけ、心にとめておいてください。
やることは、3つです。室内の蒸し暑さを抜く。消化のいいものを少しずつ、たんぱく質を意識して食べる。睡眠・入浴・運動・光で生活リズムを整える。つらさが強いとき、受診サインがあるときは、無理をせず医療機関に相談してください。
よくある質問
Q. 梅雨になると食欲がなくなるのはなぜですか?
蒸し暑さで自律神経のバランスが崩れ、胃腸の動きが落ちて消化不良を起こしやすくなることが一因と考えられます。気温と湿度が同時に高い梅雨は体温調節の負担が大きく、食欲が落ちやすい時期です。
Q. 食欲がないとき、何を食べればいいですか?
おかゆ、うどん、豆腐、卵、白身魚など、消化にやさしくたんぱく質も取りやすいものがおすすめです。冷たいものに偏らず、量を控えめにして回数を分けると、胃腸の負担を抑えやすくなります。
Q. 梅雨の食欲不振や胃もたれは、いつまで続きますか?
個人差はありますが、蒸し暑さがやわらぐにつれて回復していくことが多いと考えられます。ただし、体重が大きく減る・嘔吐が続く・症状が数週間引かないといった場合は、別の原因が隠れていることもあるため、早めに受診してください。
Q. 受診を考える目安はありますか?
短期間での大きな体重減少、続く嘔吐、吐血や黒い便、強い腹痛や発熱、数週間引かない症状は、受診のサインです。梅雨の不調では説明がつかないため、自己判断で様子を見続けないことが大切です。
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医療免責事項
本記事は、一般的な健康情報の提供を目的としたものであり、特定の診断・治療・予防を保証するものではありません。症状や体質には個人差があり、本記事の内容がすべての方に当てはまるわけではありません。気になる症状がある場合や、本記事で挙げた受診のサインに該当する場合は、自己判断で対処を続けず、医師や薬剤師など医療専門職にご相談ください。
【使用文献】
- Jeong JH, Lee DK, Liu SM, Chua SC Jr, Schwartz GJ, Jo YH. Activation of temperature-sensitive TRPV1-like receptors in ARC POMC neurons reduces food intake. PLoS Biol. 2018.(PMID: 29689050)
- Zhu H, Wang H, Liu Z, Li D, Kou G, Li C. Experimental study on the human thermal comfort based on the heart rate variability (HRV) analysis under different environments. Sci Total Environ. 2018;616-617:1124-1133.(PMID: 29096956)
- Liu W, Lian Z, Liu Y. Heart rate variability at different thermal comfort levels. Eur J Appl Physiol. 2008;103(3):361-366.(PMID: 18351379)
- Duan H, Cai X, Luan Y, Yang S, Yang J, Dong H, Zeng H, Shao L. Regulation of the Autonomic Nervous System on Intestine. Front Physiol. 2021.(PMID: 34335306)
- Czimmer J, Taché Y. Peripheral Corticotropin Releasing Factor Signaling Inhibits Gastric Emptying: Mechanisms of Action and Role in Stress-related Gastric Alterations of Motor Function. Curr Pharm Des. 2017.(PMID: 28245760)


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