高齢者が熱中症になりやすい理由|親世代を守るために知っておきたいこと

健康習慣(全般)

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「元気そうだから大丈夫」では済まされない

夏になると、両親や義父母の熱中症が心配になりませんか。「エアコンをつけてと言っても、もったいないと言ってつけない」「お茶を勧めても、のどが渇かないと断られる」——そんな声を、医療現場でも、同世代のお母さんたちとの会話でもよく耳にします。

じつは、この「平気そう」「本人が大丈夫と言っている」という状況こそが、高齢者の熱中症を見落としやすい最大の落とし穴です。

消防庁の報告によると、令和6年(2024年)5月〜9月の熱中症による全国の救急搬送人員は97,578人にのぼり、調査開始以来最多を記録しました。そのうち65歳以上の高齢者は55,966人で、全体の約57.4%を占めています(消防庁「令和6年の熱中症による救急搬送状況」)。

なぜ、高齢者はこれほど熱中症にかかりやすいのでしょうか。単に「年をとったから」ではなく、加齢に伴う複数の生理的変化が重なり合っています。この記事では、その仕組みを保健師・看護師として医学的にわかりやすく解説し、家族として何ができるかを具体的にお伝えします。


高齢者が熱中症になりやすい5つの理由

理由①「暑い」と感じにくくなる――温度センサーの老化

私たちが「暑い」と感じるのは、皮膚に分布する温度センサー(温点)が外気温を感知し、その情報が脳の視床下部にある体温調節中枢へ伝わるからです。体温調節中枢は「暑い」と判断すると、皮膚の血管を広げて放熱を促したり、汗腺に発汗の指令を出したりします(自律性体温調節)。さらに「暑いからエアコンをつけよう」「上着を脱ごう」という行動による調節(行動性体温調節)も働きます。

加齢とともに、この温度センサーの感度は低下します。環境省「熱中症環境保健マニュアル2022」では、温度差を識別する能力は個人差はあるものの60歳を過ぎる頃から低下し始めると報告されています。その結果、実際には部屋が高温・多湿になっていても「そんなに暑くない」と感じてしまい、エアコンをつけない・設定温度を高くしてしまう・余分な衣服を着込んだままにする、といった状況が生まれます。

同マニュアルでは、夏季(7〜9月)の高齢者(70歳以上)の居室は、若年者と比べて室温が約2℃高く(31〜32℃に達することもある)、相対湿度も約5%高い高温多湿の環境にあることが報告されています。これは「節電したい」「冷えが苦手」という理由だけでなく、暑さ感知機能そのものが低下しているためです。


理由②発汗量・皮膚血流量が減る――熱を逃がす力の低下

体温を下げる主なメカニズムは2つです。

  • 発汗:汗が蒸発するときに体から熱を奪う(気化熱)
  • 皮膚血流の増加:体表面に血液を集めて外気に放熱する

老化が進むと、この両方の機能が低下します。具体的には、暑さへの反応として皮膚血流量と発汗量を増やすまでに時間がかかるようになり(反応の遅延)、増加する量そのものも若年者より小さくなります。

環境省マニュアルによれば、発汗能力の低下は下肢→体幹後面→体幹前面→上肢→頭部という順に進行し、加齢の影響が比較的遅く現れる前額部の発汗が代償的に増加することも報告されています。これは重要な臓器である脳の温度上昇を抑えるための適応と考えられていますが、全体としての熱放散能力は確実に低下しています。

また、暑いとき皮膚への血流量が増えると、心臓にもどってくる血液量が一時的に減少し、心拍数を増やすことで対応しようとします。この循環系への負荷が、もともと心臓や血管の機能が低下している高齢者には大きなリスクになります。


理由③のどの渇きを感じにくくなる――脱水に気づけない

一般的に、体内の水分が不足してくると「のどが渇く」という感覚が生じ、自然に水を飲みます。ところが高齢者では、脱水が進行していても口渇感が起こりにくい状態が生じます。環境省マニュアルでは、これは脳での察知能力の低下によるものと説明されています。

加えて、高齢者はもともと体内の水分量(体液量・血液量)が若年者より少ない状態にあります。この出発点の低さに、口渇感の鈍化と腎機能の低下(脱水状態からの回復が遅くなる)が重なることで、高齢者は若年者と同程度の発汗をした場合でも脱水に陥りやすく、かつ回復しにくいことが指摘されています(環境省「熱中症環境保健マニュアル2022」)。

「のどが渇いていないから飲まない」という高齢者の言葉を、そのまま受け取ってはいけない理由がここにあります。

さらに、高齢者に多い「トイレに行く回数を増やしたくない」という気持ちから水分摂取を意図的に控える場合もあり、脱水リスクをさらに高める要因になっています。


理由④基礎疾患と服薬の影響――複合的なリスク

高齢者の多くは高血圧、心疾患、糖尿病などの慢性疾患を持ち、複数の薬を服用しています。薬の種類によっては、熱中症リスクを高める作用があることが知られています(Leon & Bouchama, 2015)。

  • 利尿剤(高血圧・心不全などに使用):尿量を増やすことで脱水を促進しやすくなる
  • β遮断薬(高血圧・狭心症などに使用):心拍数を抑える作用があり、暑熱環境での循環系の代償反応を妨げる可能性がある
  • 降圧剤(ACE阻害薬・ARBなど):血管拡張作用により、暑熱環境での急激な血圧低下が生じやすく、脱水状態では腎機能への影響が増す可能性がある
  • 抗コリン薬(過活動膀胱・消化器疾患などに使用):発汗を抑制する作用があり、体温調節を妨げる
  • 抗ヒスタミン薬(アレルギーや睡眠補助に使用):発汗抑制・中枢神経への影響がある

これらの薬を自己判断で中止・減量することは危険ですが、主治医に夏の水分管理について相談しておくことは有益です。服薬中の方は「夏に向けて何か注意すべきことはありますか」と診察時に確認することをお勧めします。


理由⑤一人暮らし・孤立による「見守り不在」

高齢者の熱中症で見逃せないのが、環境・社会的要因です。同居者がいれば「なんか顔色が悪い」「ぼんやりしている」と気づけますが、一人暮らしや日中は独居になる場合、本人が気づかないまま症状が進行することがあります。

環境省「熱中症環境保健マニュアル2022」では、高齢者では住宅内での熱中症発生が半数を超えることが報告されています。また、岩田ら(2008年、日本老年医学会雑誌)が名古屋掖済会病院救命救急センターで行った研究では、自宅内で発症した熱中症は全例が65歳以上で入院を要しており、高齢者入院熱中症の80%を自宅内発症が占めていました。自宅発症例の多くに「空調設備なし」「独居または配偶者と2人暮らし」という特徴があり、見守り体制の欠如が重症化につながることが示されています。「家にいるから安全」ではなく、自宅こそ最も見えにくいリスクの場所であるという認識が必要です。


【チェックリスト】高齢の家族の熱中症リスクを確認する

以下のチェックリストは、高齢の家族の状態を確認するためのものです。症状の有無は熱中症以外の疾患でも生じることがあり、医学的な診断を行うものではありません。

環境チェック(見守る側が確認)

  • [ ] 室温が28℃を超えていないか(温湿度計で確認)
  • [ ] 湿度が60%以下になっているか
  • [ ] エアコンが使用されているか(フィルターは清潔か)
  • [ ] 窓の開け方や風通しは確保されているか
  • [ ] 水分が手の届くところに置かれているか

体調チェック(高齢の本人・家族が確認)

Ⅰ度相当(軽症の可能性)

  • [ ] 立ちくらみやめまいがある
  • [ ] 足がつる(こむら返り)
  • [ ] 体がだるく、ふらつく感じがある

Ⅱ度相当(中等症の可能性)

  • [ ] 頭痛や吐き気がある
  • [ ] 体に力が入らない
  • [ ] 普段より元気がなく、食欲が落ちている
  • [ ] ぼーっとしていたり、返事がいつもと違う

Ⅲ度相当(重症の可能性)

  • [ ] 意識がはっきりしない、呼びかけに反応しない
  • [ ] まっすぐ歩けない
  • [ ] からだが熱く、皮膚が乾燥している(汗が出ていない)
  • [ ] けいれんが起きている

⚠️ Ⅱ度・Ⅲ度の症状が疑われる場合は、すみやかに医療機関を受診してください。Ⅲ度の疑いがある場合は迷わず救急車を呼んでください。


高齢者の熱中症を防ぐ具体的な対策

水分補給:「のどが渇いてから」では遅い

高齢者は口渇感が低下しているため、本人任せにせず周囲から促すことが大切です。環境省の高齢者向けリーフレットでは、1日あたり約1.2Lを目安に、こまめかつ定期的な水分補給を推奨しています。

  • 起床後・入浴前後・就寝前には必ず一杯の水を
  • 「のどが渇いていなくても時間を決めて飲む」習慣を
  • 好みの温度・味のものでかまわない(冷たいものが苦手なら常温でもOK)
  • 夏野菜・果物・みそ汁・ゼリーなど食事からの水分補給も活用する

ただし、心疾患や腎臓病で水分摂取量を制限されている方は、主治医の指示に従ってください。

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エアコン:「寒い」は体感であって安全ではない

「エアコンをつけると寒い」と言う高齢者は多いですが、これは温度センサーの老化により室温を低く感じにくくなっているためです。客観的な温湿度計を部屋に置き、「28℃以下・湿度60%以下を目安に」数字で確認してもらうのが有効です。

  • 温湿度計を目につく場所に設置する
  • 直接風が当たらないようエアコンの風向きを調整する
  • 扇風機や換気扇と併用して部屋全体を涼しくする
  • フィルターは2週間に1度を目安に清掃する

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見守り:「声かけ」と「他覚症状」の確認

高齢者は自覚症状に乏しいため、見守る側が「他覚症状」——元気があるか、食欲はあるか、顔色はどうか——を積極的に確認することが重要です。

  • 毎日1回は電話・訪問などで様子確認をする
  • 「大丈夫」という言葉だけに頼らず、顔色・返事の様子・動作を確認
  • 脇の下や口の中の乾燥具合は脱水の指標になる
  • 体重・血圧・体温のデータを把握しておくと変化に気づきやすい

主治医・かかりつけ薬局への相談

服薬中の高齢者は、夏前に主治医や薬剤師に「夏の水分管理で注意することはありますか」と相談しておきましょう。自己判断での服薬中止・減量は危険なため、必ず医療専門家に確認してください。


よくある質問(Q&A)

Q. 高齢者は室内にいれば熱中症にならない?

A. そうではありません。環境省「熱中症環境保健マニュアル2022」によると、高齢者では住宅内での熱中症発生が半数を超えることが報告されており、岩田ら(2008)の研究でも高齢者入院症例の80%が自宅内発症でした。エアコン未使用や不適切な設定温度・湿度により、室内でも高体温(hyperthermia)を起こすリスクがあります。特に夜間・早朝、部屋に熱がこもりやすい時間帯も注意が必要です。

Q. 高齢の親が「大丈夫」と言うのに、どうやって対策させればいい?

A. 「大丈夫かどうか」を本人の感覚だけに委ねないことが大切です。温湿度計の数値を一緒に確認する、水の入ったコップを目につくところに置いておく、こまめな声かけを習慣にするなど、環境を整える形でサポートしましょう。「エアコンをつけなさい」という言い方より、「温度計が○℃になっているよ」と数字を見せる方が受け入れられやすいことがあります。

Q. 日常的に運動している高齢者も注意が必要?

A. 日常的に運動して若年者と同等の体力レベルを持つ高齢者では、暑さへの耐性が維持されていることが報告されています(環境省「熱中症環境保健マニュアル2022」)。ただしそれは「リスクがゼロ」ではありません。運動習慣は体温調節機能の老化を遅らせる可能性がありますが、過信は禁物です。

Q. 服薬は熱中症にどう関係する?

A. 利尿剤・抗コリン薬・抗ヒスタミン薬などは発汗抑制や脱水促進などを通じて熱中症リスクを高める可能性があります。ただし、自己判断で薬を中止・変更することは病態の悪化を招きかねません。主治医や薬剤師にご相談ください。


著者より(保健師・看護師として、そして義理の娘として)

私の義父母は70代で二人暮らしをしていますが、夏場でも窓を開けて過ごすことが多く、エアコンをあまり使わないのが毎年悩みの種です。「風が入るから大丈夫」と言うのですが、窓を開けても室温・湿度が十分に下がらない日は多く、見守る側としてはひやひやします。

「本人が大丈夫と言っているから」と任せきりにはできません。訪問時に室温を確認したり、帰省のたびに環境を一緒に見直したりと、こまめな声かけを続けています。

私のおすすめは、ティータイムに誘うことです。冷たいお茶と茶菓子で、水分補給が楽しくできます。本人も「飲まされている感」がないのでお互いの精神的負担になりません。

高齢者の熱中症予防は「本人の意識改革」だけに頼らず、環境を整え、周囲が継続的にサポートすることが大切です。この記事が、皆さんの大切な家族を守る一助になれば嬉しいです。


医療免責事項

本記事は一般的な健康情報の提供を目的としており、医療行為・診断・治療の代替となるものではありません。個別の症状や体調に関しては、必ずかかりつけ医または医療専門家にご相談ください。服薬中の方は、薬の調整や変更を自己判断で行わないでください。


参考文献

  1. 環境省「熱中症環境保健マニュアル2022」III 熱中症を防ぐためには 2.高齢者と子どもの注意事項
    https://www.wbgt.env.go.jp/pdf/manual/heatillness_manual_3-2.pdf
  2. 環境省「熱中症環境保健マニュアル各論(案)各論5. 高齢者の注意事項」(令和7年3月)
    https://www.wbgt.env.go.jp/pdf/sg_pcm/R0603/ref04.pdf
  3. 消防庁「令和6年(5月〜9月)の熱中症による救急搬送状況」(令和6年10月29日)
    https://www.fdma.go.jp/disaster/heatstroke/items/r6/heatstroke_nenpou_r6.pdf
  4. 厚生労働省・環境省「高齢者のための熱中症対策リーフレット」(2022年8月)
    https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/nettyuu/nettyuu_taisaku/pdf/heatillness_leaflet_senior_2022.pdf
  5. 岩田充永, 梅垣宏行, 葛谷雅文, 北川喜己「高齢者熱中症の特徴に関する検討」日本老年医学会雑誌, 2008年, 45巻3号, p.330-334.
    doi:10.3143/geriatrics.45.330
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/geriatrics/45/3/45_3_330/_article/-char/ja
  6. Leon LR, Bouchama A. Heat stroke. Compr Physiol. 2015 Apr;5(2):611-647.
    doi:10.1002/cphy.c140017. PMID: 25880507

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瀬戸 茉莉花

看護師として大学病院・公立病院で臨床を経験後、現在も大学教員として17年間、看護学生の教育と生活習慣病予防の研究に携わっています。看護師・保健師。保健学博士。2児の母として、子育てをしながら情報発信中。
人の幸せの根底には、健康があると思っています。健康だからこそ、大切な人と楽しい時間を少しでも多く過ごせる。そのために健康オタク仲間を増やして、みんなで人生の最後まで元気でいたい。そんな思いでこのブログを書いています

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